その6 待ち伏せ

 『おっぱい怪盗』の正体を探るべく

宿屋で話し合いをしていた三人だが、

大した成果もないところで襲来を告げる声が聞こえてくる



「今のはまさか・・・?」


「聞き間違えじゃなければ、

『おっぱい怪盗』が出たって・・・。」


「3日に一度程度と聞いていたぞ?

どうしてこんなに早く・・・。」


「と、とりあえず行ってみましょう。」



 思いもよらぬ事態に困惑するレナードたちは、

ひとまず宿を出て騒ぎのする方へ駆けていく。


 そこには多くの人だかりと、

屋根に立つ『おっぱい怪盗』の姿があった。



「オーッホッホッホ! ごきげんよう皆様!

本日は急な中お集りいただきありがとうございますわ!

実は急用ができまして予定を早めましたの。」


「貴様! 今日こそ捕まえてやる!」


「今日も素晴らしい合いの手をありがとうございますわ。

ではそろそろ舞台の幕を開けましょう。」



 怪盗はそう言い放つと屋根の上を軽々と飛び移っていく。


 とても大きなおっぱいを大胆に揺らしながら、

地上にいる人々へ自分の姿を見せつけるように、

あるいは兵士たちを誘導するように移動していた。



「始まったか・・・。 どうもあの怪盗は

物を盗ってからすぐには逃げないらしい。

ああやって町の中を一通り飛び回るそうだ。」


「あれもパフォーマンスの一環なのよね・・・。

でも注目を集めるのは何の意味があるのかしら」


「うーん・・・、なんだろう・・・。

兵士たちを一か所に集めて逃走しやすくするのか・・・。

はてまたからかって遊んでるつもりなんだろうか。」


「それより、追いかけようにもあんなに軽々と動かれては難しいですね。

こうも人が多くては普通に走ることもできません。

・・・あ、もう見えなくなっちゃいました。」



 あっさりと姿を消してしまった怪盗の素早さに

どうすることもできなくなる三人。


 予想していたよりもずっと追跡が困難であり、

ますます困っていたが・・・。



「どうしましょう・・・。 そういえばあの怪盗、

外から入ってきて外へ出ていくのよね?

そこを待ち伏せしてみるのはどうかしら?」


「ううむ・・・。 実際にどこをどう通るのか分からなければ

待ちようもないが・・・。

とりあえずあてずっぽうでやってみるかい?」


「今のところ手立てはなさそうですね・・・。

一回だけでもやってみましょう。」



 できることもなく、マイナの考えを採用して

町の出入り口を目指す三人。


 そして、相変わらず誰もいなくなった

出入口へたどり着いたところで

途端に後方が騒がしくなった。



「ええい、待てー! 『おっぱい怪盗』め!

大人しくしろー!」


「オーッホッホッホ! 本日も急な開演に応対していただき

ありがとうございますわ! それとお見送りご苦労さま!」



 振り返ると、兵士を引き連れた怪盗が

屋根の上に立っている。


 思わぬ遭遇に驚く三人だったが、

マイナがこんなことを呟いた。



「あっちこっち逃げ回ってるのかと思ったら

ここへ来てくれるなんて・・・、

ねえ、あの人、昨日もあの家の上にいなかったかしら?」


「言われてみれば・・・、もしかしたら

巡回ルートも出入りする場所も決めているのかも?」


「だとしたら、次は町の外に出るんじゃ・・・。

もしかしたら待ち伏せできるかもしれません。」



 そう考えたレナードたちは、

すぐに門番のいない出入口へ駆け出す。


 そんな中『おっぱい怪盗』は

兵士たちにもったいぶった言い方で演説をしていた。



「本日もまた、ワタクシの逃走劇を盛り上げていただき

大変嬉しく思いますわ。

ですが悲しいことに、お別れ時間がやってきました。」


「くそっ! 誰かあいつを捕まえろっ!」


「それと・・・、まことに残念ですが、

この町で皆様に演目をお届けするのは今日が最後かもしれません。

今日は特別に握手を許してさしあげてもよろしくてよ?」


「ふざけたことぬかしやがって!

今すぐ降りてこいっ!」


「ふふ、演者が舞台を降りるのは引退の時だけですわ♪

では皆様、名残おしいですがごきげんよう!」



 今回もまた、恐らくいつものように好き放題な言葉を並べてから

『おっぱい怪盗』が屋根を飛び回って外壁へ上がる。


 そこで町を見下ろしながら、

今度は独り言をつぶやき出した。



「この町にはずいぶんお世話になったけど、

アジトの存在がバレてるとしたらもういられないわね。

あの子たちのことを考えたらこれ以上の危険は犯せない。」


「次もいい場所が見つかるといいけど・・・。

ま、今は考えたって仕方ないわ。」



 『おっぱい怪盗』は踵を返して壁の上から飛び降り、

ほとんど音もなく着地する。


 しかし、そんな彼女を三つの影が取り囲んでいた・・・。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る