その5 再来のおっぱい怪盗

 一度別れて宿に戻った三人は、

それぞれの成果を報告していた。



「こちらは無事に換金が終わりました。

ただ、補充の方で少し問題が・・・。」


「何かあったのかい?」


「なんでも、最近はどこも食料が不足してるそうなの。

だから保存食はほとんど買えなかったわ。」


「食料を買い込むどころか、モンスターの肉があったら

いい値段で買い取るとまで言われまして・・・。」


「なるほどねえ・・・。 目に見えるぐらいには

影響が出てるわけか。

まああの様子じゃそうだろうね。」



 情報収集をしていたドロシーの意味深な言葉に、

レナードが反応する。



「もしかしてあの怪盗が原因だったり・・・?

何か分かったんですか?」


「ああ。 情報は簡単に集まったよ。

なにせ今この町の話題はあのおっぱい怪盗で持ち切りさ。

大まかにだがいろいろと聞けた。」


「本当ですか? じゃあさっそく教えせてください。」


「もちろんだよ。 とりあえずは一通り伝えようか。」



 そうして、ドロシーの集めた情報が

レナードとマイナにも伝えられる。


 曰く、その『おっぱい怪盗』は半年ほど前に突如現れ、

この町でずっと、3日に1度は盗みを働いているという。


 狙われるのは主に食料品がほとんどであり、

時折り生活用品なども馬われているようだ。


 逆に金銭の類いは基本的に盗まれず、

白昼堂々と活動するのが主らしい。



「それでもって、私たちが見たように

パフォーマンスも多いとのことだ。

あとはまあ、異様に身体能力が高いということぐらいかな。」


「なるほど・・・。 ありがとうございます。

となると次に現れるのはあと2日は先なのか・・・。」


「食べ物ばっかりって、変な怪盗ねぇ・・・。

お金の類いは盗らないのかしら。」


「まあ金銭が手に入ったとしても、あの身体を見るに

堂々と使うことは難しいだろうね。

それでレナード君、やっぱりあの怪盗を捕まえるのかい?」


「・・・はい、そのつもりです。

まずは確認したいですから・・・。」



 レナードの返答に少し考えると、

ドロシーはそれに付き合うことを告げる。


 そして具体的にどうするかの話し合いが始まった。



「とりあえず、捕まえるのはいいとして・・・。

実際にどうすればいいのかしら。

少ししか見てはいないけど、あの怪盗、凄くなかった?」


「そうだね。 噂にもなってるぐらいだ。 あの身体能力は相当だよ。

あれでいつも壁を超えて町へ侵入し、

そして壁を越えて出ていくらしい。」


「門番が全員で現場に向かうわけですね・・・。

あれじゃ門を守る意味がありません。」


「あれってやっぱりレナード君と同じ女神の祝福ってやつなのかな?

それともああいうことができるようになる魔法があるの?」



 マイナの質問に、レナードとドロシーが少し考える素振りを見せる。


 そして首を横に振ってその疑問を否定した。



「恐らく違うと思います。 仮に僕のように体を強くしてるなら、

使ってることが分かる何かがあるはずです。

例えば僕の場合は体が光るとか。」


「それに魔法も、基本的には呪文が必須だからね。

事前に使っていたとしても

あんなにパフォーマンスをする余裕はまずないだろう。」


「そうなの? じゃあどうやってあんなに軽々と

屋根に上ったりしてるのかしら・・・。

まさか元々あんなに動けるってだけの話?」


「うーん・・・。 可能性があるとすれば

『魔法の道具』を使ってるのかもね。」


「魔法の道具・・・、確かダンジョンにあるっていう

身に着けるだけでいろんな力を発揮する道具でしたか。」


「そんな道具があるの? というか・・・、

そもそもダンジョンって何だったかしら?」


「まあ、簡単に言うとモンスターの巣窟だよ。

とりあえずそこは置いておこう。

今はあの怪盗をどうするかだね。」



 ドロシーの言葉に全員が黙り込み、

あれこれと考え事をする。


 そして、一番最初にマイナが自分の意見を口にした。



「というか、どうするも何も

レナード君が捕まえればいいんじゃないかしら。

ほら、あのものすごく速くなる祝福を使って。」


「うーん・・・。 確かにそれが一番

捕まえられる可能性が高いかもしれませんが、

いろいろと難しいんです。」


「難しいの? いくらあの人が人間離れしてるといっても、

レナード君の方がすごかったじゃない。

大型モンスターを倒した時なんか光みたいだったわよ?」


「確かにスピードでなら勝てると思いますが、制御も難しいんです。

建物の多い街中、あるいは足場の少ない屋根の上で捕まえるとなると・・・。」


「障害物にぶつかってしまったり、

足場を渡り継ぐのが難しいというわけだね?」


「はい・・・。 もっと言うと誰かにぶつかったら

僕もその人も無事じゃすみません、だから基本的には

広い場所でモンスター相手にしか使わない、というより使えないんです。」


「なるほど、仮に追い詰めるだけに使うとしても、

やるなら広い場所・・・、というか

町の外ぐらいじゃないと無理じゃないかい?」


「そうなりますね・・・。 でもそうしたら

まず外へ逃げた時に走って追いつかないと・・・。」


「広いところへ出るまでは祝福を使えない、

しかしそのためにはあの速さに自力で追いつく必要があると・・・。

いっそ頃合いを見計らって待ち伏せた方がいいかもしれないね。」



 大して考えもまとまらず、

三人は再び頭をひねりながら呻くばかりになる。


 しかしそこへ、外から思いもよらぬ声が聞こえてきた。



「また出たぞー! 『おっぱい怪盗』だー!」



 予想よりも早い来襲に、レナードたちは目を丸くする。


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