その3 おっぱい怪盗
「オーッホッホッホ! 今日もワタクシ『おっぱい怪盗』の美貌を見に
大勢の方が集まってくださったようですわねぇ!」
自らを『おっぱい怪盗』と名乗る謎の女性は
高らかな笑い声をあげていた。
その姿は肩まで伸びた金色の髪に目元を隠す仮面、
口元には口紅まで塗られて艶やかな雰囲気を醸し出している。
そして黒い衣装に身を包み、真っ赤なマントをたなびかせていたが、
何よりも目を引くのはやはり
その名に恥じないほど大きな『おっぱい』だった。
大胆に胸元が裂かれ、谷間を見せつける恰好は
この世界において異質という他ないだろう。
「お、おっぱいかいとう・・・?
まさかとは思うが・・・、あれが噂の巨乳女性かい・・・?」
「レ、レナード君・・・、一応聞いてみるけど、
もしかしたらあの人が君の探していた・・・。」
「ちっ違います! あの人じゃありません!
何もかも違いますから!」
同じ巨乳であっても困惑するような相手らしく、
呆然と怪盗を見上げるマイナとドロシー。
レナードはというと、その女性は思い出の人物と似ても似つかぬものの
万が一同じ人間だったらと考え少しだけ不安になっていた。
そして渦中にいるおっぱい怪盗は、
三人の観客には気付くことなくワンマンショーを続けている。
「今宵もたくさんの観客を沸かせることができて嬉しく思いますわぁ♪
では、名残惜しくはございますがそろそろおいとまさせていただきましょう!」
「ふざけるなコソ泥め! 盗んだものをすぐに返せ!」
「いやですわぁ、コソ泥だなんて。 怪盗とお呼びくださいまし。」
「なにが怪盗だ! いっつも食い物ばかり盗みやがって!
その手に持ってるものをこっちに寄こせ!」
「それはできない約束ですわねぇ。
この食料は恵まれない人たちに差し上げるものですから。」
怪盗は飛び交うヤジも意に介さず、
むしろ相手を煽るようなことばかり発言している。
しかし、彼女を捕まえようとしている兵士たちは
ただ手の届かない相手を罵倒しているだけではなかった。
下の人間は囮の役割もあったらしく、一人の兵士が
相手の立っている建物へ裏からよじ登っている。
そして、縄を持ってじりじりとにじり寄っていたが・・・。
「あらぁ? 観客が舞台に上がろうだなんて無粋ですわねぇ?
そんなにワタクシの体に触りたいんですのぉ?」
「う、うわぁっ! で、でかいおっぱいがぁ!」
兵士が近付いていたことに気付いていたらしく、
怪盗は両手を頭の後ろに組みながら腰をひねり、
胸を見せつける煽情的な姿勢で振り向いた。
すると揺れ動く乳房を恐れてしまったのか、
兵士が思わずひるんでしまう。
レナードたちは相手の姿を確かめるべくこっそりと近づき、
その様子を見ていた。
「ううむ、あれは間違いなく巨乳だね・・・。
しかしそれを武器にして兵士を脅すとは・・・。」
(私も町を出る時にこのおっぱいで兵士を脅した、
とは言えないわね・・・。)
(あれはどう見てもシルヴィお姉ちゃんじゃない、声も髪の色も違う。
でも万が一ってことがあるから仮面の下も確かめたい・・・。)
目の前の存在に様々な感想を抱いていると、
怪盗は再び下にいる兵士たちへ向き直る。
「無粋な客が来てしまったことですので、
そろそろ舞台の幕を下ろしますわ。
では皆様、またお会いしましょう。 ちゅっ❤」
おっぱい怪盗は挨拶しつつ投げキッスをすると、
盗品を持ったまま建物の屋根を飛び移り、
やがて町の外へ逃げてしまう。
その人間技とは思えない跳躍を見送る三人の後方で
兵士たちが苛立ちの声を上げる。
「くそっ! また逃げられた!
おい、なんでしっかり捕まえなかったんだ!」
「しょ、しょうがねえだろ、やっぱ怖ぇもんは怖いんだよ!」
「今月はもうこれで何度目だ?
こう毎回警備に駆り出されちゃこっちも疲れるぜ」
そんな騒がしい声で正気に戻った三人は
慌てて兵士たちから距離を取る。
ひとまずは休める場所を探そうと、
そのままできるだけ人気の少ない宿を探し始めた・・・。
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