その4 逃走

 元雇い主であり、刺客となった初老の男性、

ロブの顔面に魔法を叩きつけたドロシー。


 地面を転がる相手に一瞥暮れると

レナードたちの方へ戻っていく。



「レナード君、マイナ、こちらは終わったよ・・・。

あれならしばらくは追いかけてこられないと思う。」


「ドロシーさん、終わったんですね。

こっちも・・・、ふんっ!! よし、これで全部の鎖が切れました。」


「ありがとうレナード君、それと・・・、

ドロシー、無事でよかったわ。」


「こちらの台詞だよ、

それに君たちにはとんでもない迷惑をかけて・・・。

本当にすまない・・・。」


「いいえ、私たちはこういう危険があるって分かってて

あなたを迎え入れたの。」


「マイナ・・・。」


「それに、友達がピンチなら助けるべきじゃない?」


「そう、かもね・・・。

それなら、君たちがピンチの時は

今度は私が尽力しよう・・・。」



 マイナとドロシーがお互いに笑顔を見せながら頷きあう。


 話がひと段落付いたところで、レナードが改めて声をかける。



「お話し中すみませんが、すぐにここを離れましょう。

あの人たちがいつ動けるようになるか分かりません。」


「ああ、そうだな・・・。 ところでレナード君は

いつまでその祝福を使っているんだい?」


「いえ、時間がないものですから・・・。

すみません二人とも、失礼します。」



 いまだ光輝くレナードは、

そう言ってマイナとドロシーを両脇に抱えると

一目散に駆け出した。


 思いもよらぬ移動が始まり、

二人はしんみりした空気も忘れて慌てふためく。



「ちょ、ちょっとレナード君? 急にどうしたの!」


「ごめんなさい! 事情は後で話しますから

とにかくこのまま進みましょう!」


「ちょ、早い早い! どこまで行く気だい!?」


「行けるところまで行きます!

できれば予定していた水場まで!!」



 大人の女性を二人抱えながら、

通常よりもかなり早いスピードで走るレナード。


 草原を駆け抜け、目指す町への道筋をひた走っていると

ほんの数分程度で予定の場所まで到着してしまった。


 そこでレナードはようやく立ち止まり、

マイナとドロシーを地面へ下ろす。


 そして赤い光が消えたかと思うと、

レナードはその場にへたりこんでしまった。



「ひ、ひえぇ・・・、やっと止まってくれた・・・。

ここはどこかしら・・・?」


「どうやら川まで到着してしまったみたいだね・・・。

レナード君、どうしてこんな無茶を・・・、

・・・ちょっと、大丈夫かい?」


「はぁ・・・、はぁ・・・、すみません・・・。

もうこれ以上は動けません・・・。」



 レナードはそう言いながら、仰向けになって地面へ寝転ぶ。


 息せきつく彼を見て、二人は少し心配そうに近づいた。



「レナード君、大丈夫? 前の時もそうだったけど、

あの女神の祝福って使うとそんなに疲れるのね。」


「疲れるのは確かですが・・・、

前と違って、今回は力を覚醒させたんです。

そうすると終わった後は体に力が入らなくなって・・・。」


「なるほど、それで動けなくなる前に

あいつらから離れたってわけだね。」


「そういうことです・・・。 すみません。

それなりに長い時間使ったので、

恐らく明け方ぐらいまでまともに動けないと思います。」


「大丈夫よレナード君、ちょっと早いけど

今日はここで野営しましょう。もしモンスターに出会っても、

いざとなれば私が背負ってでも移動するから。」


「ありがとうございます・・・。」



 マイナの言葉にお礼を言うと、

レナードはゆっくりと休息を始める。


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