その2 筋書き

 自分の命を狙う刺客に対してその目的を確認したところ、

ロブという男性がゆっくりと口を開く。



「その通りだ。 と言いたいところだが・・・

貴様は一度首都へ連れて帰る。」


「どういうことだ?

また私を使って何か企んでいるのか?」


「その前に確認をするが、

貴様は私の秘密を誰かに漏らしていないだろうな?」


「お前の秘密? 逃げながら誰に話すを言うんだ。

地位を揺るがしかねない一番の秘密なら、

私の存在はもうばれているだろう?」


「口の減らない奴め。 だが漏らしてないなら問題ない。

あとはお前を魔王の手先として大々的に処刑するのみよ。」


「処刑? なぜそんな周りくどいことを。

・・・まさかとは思うがお前の所業に対する罪を私に被せるつもりか?

それで責任の追求から逃れられるとでも?」


「逆に聞いてやろう。 魔王の生まれ変わりとも揶揄される

巨乳の貴様が全ての黒幕だったとしてなんの問題があるというのだ。

そもそも他人の罪を暴く行為は実際にお前自身のやったことでもあるだぞ?」



 意地の悪い笑顔を浮かべながらそう言われ、

ドロシーは言葉に詰まる。


 それを見たロブはさらに笑いながら言葉を続けた。



「筋書きはこうだ。 魔王の手先であるお前が私を操り国家転覆を企んでいたと。

その支配から逃れた証として、そして魔王の手先が一人減ったという

安心感を民に与えるためお前は公開処刑されるのだ。」


「めちゃくちゃだな、子供だって嘘だと分かるほどの拙さだ。

お前には筋書きの才能なんてなさそうだぞ。」


「私にそんなものは必要ないから安心しろ。

そしてお前の身体という確固たる罪の証がある以上は

誰だって私を信じるものだ。」



 そう言われてドロシーはまたもや

何も言えなくなってしまう。


 無理筋ではあっても、自分が人々から恐怖される存在である以上、

どちらが支持されるかは身に染みているらしい。



「まあ、認めざるを得ないが

大体はお前の言う通りになるのだろう。

だが私の握っている秘密の中にはそれだけでは消せないものもあるはずだ。」


「つまり何が言いたいのだ?」


「私を処刑台へ上らせようというのなら、

口が利ける限り洗いざらいぶちまけてやるよ。

果たして私に罪を被せきれるかな?」


「ふん、貴様の言葉をどれほどの人間が信じると思うのだ。

・・・だが万が一を考えれば危険な橋は渡るべきではない。」


「お前ならそう言うと思った。

秘密が漏れる可能性を減らすために自ら私の捜索へ赴くぐらいだからな。

では取引といこうじゃないか。」


「取引? お前が持ち掛ける必要はない。 ・・・ロードリック」


「はいよ。」



 名前を呼ばれたロードリックという男性は

唐突にマイナの方へ歩き出す。


 そして腰に携えていた剣を抜いて

首筋にあてがった。


 それまでずっと静かに話を聞いていたマイナだが、

自分のされていることに恐怖してひきつった声を上げる。



「ひっ・・・!」


「マイナさんに何するんですかっ! や、やめてくださいっ!」


「お前、なんのつもりだ・・・!

その二人は関係ないだろう! 放せ!」


「ふん。 やはりこいつらに人質としての価値があったか。

この女も見て分かるほどの巨乳、

罪人同士で通じ合うところがあるのだろう。」



 明らかに焦った様子を見せるドロシーに

悪い笑みを見せるロブ。


 自分の読みが当たったことで満足しているのか、

上機嫌でさらにこう続ける



「さて、改めて取引といこう。

この女をこの場で処刑されたくなければ

貴様が全ての罪を被ってから処刑されるんだな。」


「・・・私の首を落としたら、

今度は彼女の首を落とす気だろう?」


「それはどうかな。 しかしどちらにせよ

貴様はこの女を見捨てられるほど非常ではあるまい。」


「・・・そうだな。 いいだろう。

大人しく処刑台に上がってやるさ。

だから彼女の安全は保証してやってくれ。」


「ドロシー!? 待って、そんなことしたら・・・!」



 諦めたように言うドロシーに、

マイナが悲痛な声を上げる。


 しかしドロシーは弱々しく微笑みながら

できる限り優しい声で返事をしようとした。



「いいんだ・・・。 いつかはこうなると思っていた。

それよりこんなことに二人を巻き込んでしまってすまないね・・・。

レナード君とマイナが助かる道を探すから・・・。」


「いやよ! 友達を見捨ててまで生き永らえようなんて、

そんなこと考えたくない!」


「友達・・・、友達か、ありがとう。

そう言ってくれて嬉しいよ・・・。」



 驚き、戸惑う様子を見せながらも

もう一度柔らかな笑みを見せるドロシー。


 しかし、ロブが二人の間に割って入り、

その顔へ掴みかかる。



「下らん話は終わったか?

どちらにせよこれ以上待つ必要はないだろう。

まったくてこずらせおって。」


「ぐっ・・・、くそっ、放せ・・・!」


「そんな態度を取っていいのか?

貴様の『お友達』とやらがどうなるかは

私の気分一つで決まるのだぞ?」


「く・・・、そ・・・!」



 愉悦の表情を向けるロブに対し、

侮蔑の目を向けるドロシー。


 どれだけ相手を憎もうとも罵ることすらできず、

ただされるがままになる他ない。


 だが、そんな空気を吹き飛ばすかのように、

レナードが大きな声を上げた。



「やめろっ!!」


「んん? 今吠えたのは誰だ?

・・・貴様か、そもそもこいつは何だ?

なぜ巨乳の女と一緒にいる。 騙されでもしてるのか?」


「ロブ様、ドロシー以外の二人にも手配書がありました。

この少年はそっちの女の逃亡を手助けしたようです。」


「罪人の手助け? 一体何を考えてるか理解できんな。

まあよい。 ドロシーの身柄さえ手に入れば

こんな奴と遊んでる暇はない。 ここに捨て置け。」


「その人たちをお前なんかに渡すものか・・・!

二人とも僕が助ける!」


「ふん、くだらんな。 何を執着しているのやら。

そもそも貴様に何ができるというのだ。

大型モンスターすらも拘束する魔法に捕まっているのだぞ。」


「ロブ様、ほっといていきましょうぜ。

さっさと戻らないと、やることが山ほどあるんですから。」


「分かっている。 アリーゼ、この女たちを

連行できるようにしろ。」


「かしこまりました。」



 レナードのことなど相手にしていないらしく、

三人組がドロシーとマイナを連れて行こうとする。


 それを見たレナードは静かに目を閉じると、

大きく息を吸い込みながら体に力を込め、

力強くこう言い放つ。


 

「《フォルス・アウート》!」



 その瞬間、彼の体が赤白い光に包み込まれた・・・!


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