第三話 その1 追跡者

 ドロシーの歩みが乱れてきたところで、

三人は少し休憩に入る。


 日差しを遮るために木陰へ寄ると、

レナードは用意していた水をドロシーに手渡した。



「そうですよ。ここらへんで休憩しましょう。

お水も用意してるから大丈夫ですよ。 はい、どうぞ。」


「やぁ、ありがとう。 ・・・んくっ。 ぷはぁ。

なんとか一息付けたよ。 しかしすまないね、貴重なお水を。」


「僕たちの分もあるから心配しないでください。

それに水はこういうときに使うものです。」


「地図には川もあったんでしょう?

ならまた汲めるから大丈夫。」


「そうか・・・。 なら良かった。

しかしレナード君はともかく、マイナもずいぶん旅慣れてるようだが。」


「私も最初はドロシーみたいだったけど

歩きやすいように服を直したらかなり楽になったわ。

そのローブも動きにくいでしょう? 直してあげましょうか?」


「いや・・・、申し訳ないがこれはそのままがいいかな。

普段はこうして体を包んでいると落ち着くんだ・・・。

動きやすくするなら、それこそこの胸をどうにかしたいものだなぁ。」


「ふふ、その気持ちはよく分かるわ。

今はブラジャーを着けてるからかなりマシになったけど、

揺れるし重いし擦れるしで大変よねぇ。」


「た、大変なんですね・・・。

ああ、僕は周りを警戒しておきますから・・・。」



 胸の話が始まると少し気まずくなったためか、

露骨に話題を逸らしつつその場を離れようとするレナード。


 しかしその時、茂みの揺れる音が聞こえたかと思うと

いきなり複数の人影が現れた。



「【スターボーン・バインド】!」


「えっ!?」



 ローブを身に纏った人が、高く大きな声で呪文のようなものを唱えた瞬間、

レナードたちの足元から鎖のようなものがあらわれる。


 四肢を、そして胴体を固定され、

三人は完全に動けなくされてしまった。



「きゃあっ! な、なによこれ、どうなってるの!?」


「マイナさん、ドロシーさん、だ、大丈夫ですか!?」


「こ、この魔法は、まさか・・・!」



 それぞれが現れた人間に目をやると、

同じような白いローブを被った三人が立っている。


 そのうちの一人が正面に手をかざしていたが、

その手を下ろしながら横の人間に声をかけた。



「・・・ロブ様、目標を拘束いたしました。」


「ご苦労、アリーゼ。 さて、久しぶりだなぁ? ドロシーよ。」


「ロブだって!? まさかお前は・・・!」


「その通り、私だ。 お前の雇い主のロブだ。

もっとも、今は刺客と言うべきだろうがな。」



 ロブと呼ばれた人間は、

やや野太い声でそう言いながら前へ出ると

被っていたフードを取る。


 白髪になりかけた髪と薄い髭を携えた、

初老の男性の姿が現れた・・・。



「やはりか、できればお前の顔は見たくなかったね。」


「奇遇だな、私も貴様と同じ気分だ。

だがまあ、今回ばかりはそういうわけにもいかなかったが。」


「ふん・・・、私のことがバレて

相当な非難を浴びたようだな。 まあ当然だろう。

お前は他人の秘密を暴いて蹴落としてきた人間なんだし。」


「黙るがいい罪人よ。 貴様のような者に避難される筋合いはない。

そもそもその秘密暴きに加担していたのはどこのどいつだったかなぁ?」


「・・・そうだな、私だよ。

お前に脅されていた面もあったが

自分の意志でやっていた部分も確かにあったさ。」



 ロブという名の男性と言い争いをしていたドロシーだが、

そこで暗い声を出しながら俯いてしまう。


 レナードは必死に手足を動かそうとしながら

マイナとドロシーへ声をかけた。



「くそっ、この鎖は一体・・・!

マイナさん、ドロシーさん、大丈夫ですか!?」


「レナード君、私は大丈夫。 でも動けないわ・・・!

ドロシー、こいつらは一体何なの?」


「・・・私が首都に居た時の上司みたいなものとその部下さ、

どうやらずっと私を探していたようでね。

町での滞在期間が長かったから追い付かれてしまったようだ。」


「そういうことだよ、デカ乳女。

何の後ろ盾も用意もないてめえが逃げるとしたら

一番近いあの町しかねえからなあ。」



 それまで何も言わなかったもう一人の人間が

ローブを脱ぎながら嫌味ったらしく言い放つ。


 現れたのは一目で分かるほどに背が高く、

短めの髪が無造作に跳ねている、

無骨な鎧に身を包むいかつい顔の男性だった。



「俺たちが到着した時点で町に潜んでるって考えだったから

俺は町の外で周囲を見張りながらの待機だよ。

余計な手間かけさせやがってよぉ?」


「ロードリック、余計なことは言わなくていいの。

それとそこのおチビさん、その鎖を千切ろうなんておよしなさい。

さっきからガチャガチャとうるさいの。」


「くっ、僕たちを・・・、いえ、ドロシーさんをどうする気ですか!

この鎖を解いてくださいっ!」



 必死に抵抗しようとするレナードだが、

体中へ巻き付いた太い鎖はびくともせず

ただただ金属音が鳴るばかりである。



「レナード君、動くと鎖が食い込んで体が痛むだけだぞ・・・、

さっき私が見せた魔法とは比べ物にならない拘束力のはずだ。」


「当たり前でしょう? 大型のモンスターだって捕まえられる魔法よ?

そもそもあなたに魔法の手ほどきをしたのは私じゃない、

比べるのが失礼なくらいだわ。」


「ああ、それは忘れてないよ。

まあそんなことはどうでもいいだろう?

お前たちは私の命を奪いに来たんだから・・・。」



 諦めたようなドロシーの言葉に

マイナとレナードが思わず息を呑む。


 少しの間誰も何も言わずにドロシーへ注目していたが、

ロブという男性が沈黙を破った・・・。

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