その11 ドロシーの魔法

「ここから『ムルの町』までは

この山際を通っていけばいいみたいですね。」


「森の中、はモンスターに強襲される可能性があるから

入らない方がいいんだっけ?

となるとこのまま草原を歩いていけばいいのね。」


「そうですね、ただ、一応周囲を警戒しておいた方がいいです。

万が一に備えて大型モンスターの存在も頭に入れておきましょう。」


「私は歩き方に関して口を出せそうにないから二人に任せるよ。」



 あらためて地図を確認し、三人は歩みを進めていく。


 目指すは巨乳の女性がいると噂になっている、

山岳地帯にある『ムルの町』だ。


 三人が揃って歩き始めたところで

ドロシーがなんとはなしに口を開く。



「ところで、大型モンスターがどうこうと言ってたけど、

まさかここらへんには大型モンスターがいるのかい?」 


「森になっていないような場所は

大型モンスターの通り道になってるんですって。

・・・とまあ、レナード君の受け売りだけど。」


「なるほど・・・、だとしたら私が出会わなかったのは

運が良かったからか・・・。

森は怖くて入れなかったんだけど、そっちに行った方が良かったのかな。」


「いえ、森は小型のモンスターが潜んでることも多いし、

接近に気付きにくいから開けた場所を進んだ方がいいんです。

大型モンスターは出会う方が珍しいし、出会ったとしても見つけやすいですから。」


「へぇ・・・、そういう定石のようなものがあるんだね。

じゃあ私の歩き方も間違ってはいなかったか。」


「ええ。 ・・・そういえばドロシーさんは

モンスターと出会ったときはどうしてたんですか?

何やら対処法を知ってるって言ったましたけど。」


「ああ、そういえば話してなかったね。

それは・・・、っと、もしかしてあれは

モンスターじゃないかい?」


「えっ? あれは・・・!」



 のんびりとした旅も、モンスターの姿を見つけたことで

あっさりと終わってしまう。


 三人の前に現れたのは、緑色の体毛で覆われた

『グラスボア』だった。


 全体的に丸みを帯びた体型で、

高さは低く足も短いが、その分太くて大地を蹴る力も強い。


 正面にまっすぐ伸びた小さな二つの牙を突き刺したり

前方を守るように発達した頑丈な鼻で相手を粉砕するモンスターだ。



「あれは『グラスボア』、厄介ですね。

逃げられないこともないですけど、

突進を回避するのは難しいですよ。」


「あれは初めて見る魔物ね・・・。

レナード君、どうすればいい・・・?」


「マイナさんたちは後ろに、僕の姿が小さくなるぐらいまで距離を取ってください。

あのモンスターの突進は普通にやったら止められませんので。

かわしながら倒しますから巻き込まれないように。」


「わ、分かったわ、じゃあドロシー、早くレナード君から離れましょう。」



 見たことのないモンスターに若干の恐怖を覚えながら、

マイナがドロシーを連れて後ろへ下がろうとする。


 しかし、ドロシーは逆に前へ出ながら

レナードにこう告げた。



「ここは私に任せてもらえないかな?

さっき言ったようにモンスターの相手はできないわけじゃないんだ。」


「ドロシーさん!? 大丈夫ですか?」


「ああ、任せておくれ。 ちゃんと安全に対処して見せるから。」



 ドロシーはローブに手を入れると

中から何かの本を取り出す。


 黒い表紙によく分からない文字が書いてあり、

装飾まで施されている不思議な本だった。


 ドロシーは片手で本を開きながら

もう片方の手をグラスボアたちへ向けると、大きな声でこう言い放つ。



「【ルート・バインド】!」



 次の瞬間、モンスターたちの足元から

木の蔓や根のようなものが飛び出し、体中へまとわりつく。


 三体いたグラスボアは、揃ってほんの一瞬で拘束されてしまった。



「・・・ふぅ、上手くいったよ。 じゃあレナード君、

あれは倒すのか、それともほっといて逃げるのかい?

どちらにせよそう長くは縛っておけないからすぐに決めてくれ。」


「あ、じゃあ仕留めておきましょう。

肉は食料になるし、牙はお金になりますから。」



 レナードはそう言うと、剣を引き抜きながら近寄り、

モンスターたちを一匹ずつ仕留めていく。


 少し離れながら様子を見ていたマイナが戻って来たところで

ドロシーに声をかけた。



「ねえ、今のは何だったの?

モンスターたちが動けなくなっちゃったみたいだけど。」


「端的に言えば『魔法』さ。 スカウトされて首都に行った時、

よく時間が空いていたからね、宮廷の魔術師から習ってたんだ。」


「あれが『魔法』かぁ・・・。 すごいわねぇ、

モンスターを一度に三体も封じちゃうなんて。」


「まあ、それでも私の魔法は手慰みのようなものさ。

攻撃的なものはほとんど使えないから

ああやって無力化するのがやっとなんだ。」


「それでも充分に役立ってるじゃない。

・・・ねえ、それって習ったら誰にでもできるのかな?」


「残念ながら多少の素質はいるらしいよ。

それに、私はさっき魔法書という補助具を使ったんだが、

これがまた高価なうえに初心者はほぼ必須でね。」


「そっか、残念ね。」



 あれこれと話しているうちにレナードがモンスターを仕留め、

使えそうな部分を取って戻ってくる。



「お待たせしました。 いい牙が取れたから

ムルの町で換金できることを祈りましょうか。

それにお肉も二、三日分はありそうです。」


「あらいいわね。 今夜は豪勢にいきましょうか。

保存食はできるだけ取っておいた方が良さそうだし。」


「そういえばマイナは料理ができるんだっけ?

どんなものか楽しみにしているよ。」


「ええ、存分に腕を振るわせてもらうわ。」



 新たな仲間の力を借りたことでモンスターとの戦いも楽になり、

三人の旅路はより盤石になっていく。


 しかし、そんな彼らを遠巻きに見る

複数の影があることには、誰も気づいていなかった・・・。


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