その10 壁の存在
町の壁に開いていた穴から無事に抜け出した三人は、
町が見えなくなるところまで歩き続ける。
そこで一息つきながら、
それぞれ胸をなでおろしていた。
「ここまでくればもう大丈夫だろう、
誰かが追いかけて来る気配も、見つかった様子もない。」
「ですね。 あんな抜け道があったなんて運が良かったです。
意外と顔を見られずに出入りする方法ってあるものなんですね。」
「それにしても、町を囲う壁にあんな穴があって大丈夫かしら?
魔物が入り込みでもしたらとんでもない騒ぎになりそうだけど・・・。」
何の気なしに呟くマイナだが、
ドロシーとレナードが少し驚いた様子を見せる。
「・・・えっ? あの、私そんなに変なこと言ったかしら?」
「えっと・・・、マイナさん、魔物は町に入ってこれないというか、
あの壁は魔物の侵入を防ぐためのものじゃないんです。」
「どういうこと? 魔物が入ってくるのを防ぐためじゃないって、
じゃあどうしてあんなに高い壁が作られたの?」
「あの壁は、主に住民を安心させるためのものなんだよ。
人と魔物を隔てる分かりやすい象徴であり、
何より高い壁で外を隠すことで、魔物の姿を見ることがない。」
「そもそも町の中心に魔物が入れなくなる
特殊な装置みたいなものがあるんです。 簡単に言うと。
まあ、それがあるから町が作られたらしんですが・・・。」
「そ、そうなの・・・? じゃあ、私たちは
あの壁に守られてたんじゃなくて、その装置に守られてたのね。
知らなかったわ・・・。」
「えっと・・・、これ、学び舎で習うことなんですが・・・。
マイナさんが通ってたころは違うんでしょうか・・・?」
レナードの問いかけに対し、
マイナは苦笑しながら頬をかく。
そしてばつが悪そうに目を泳がせつつこう告げた。
「あはは。 ・・・実は私、学び舎は途中からいかなくなったの。
9歳のころだったかな・・・、
その時から、胸が膨らみ始めちゃって・・・。」
「えっ? あっ・・・、す、すみません、
無神経なこと言っちゃって・・・。」
「いやいや、いいのよ。 ただ・・・、あの頃はもう
人と会うのが極端に怖かったから・・・。
克服するのにかなりの時間がかかったの・・・。」
「その辺に関しては私もいくらか覚えがあるよ。
まあ、その・・・。 学習なんて今からでもできるんだ、
これからは気になることがあったらいつでも言っておくれ。」
「そ、そうですよ、僕も分かることだったら説明しますから。
・・・それに、マイナさんにもいろいろと
教えてもらいたいですもの。」
「私に? いや、でも学び舎もやめちゃってるのに・・・。」
「お料理のこともそうですけど、
裁縫だって僕より上手でしたから、
旅の中で教わることはいっぱいあると思います。」
「ああ、それなら私にも教えてもらおうかな?
旅をするなら身に着けておくべきだろうし、
どうだろう? 後で一つ、ご教授お願いできるかな?」
「・・・あはは。 二人ともありがとう・・・。
それじゃ、時間があるときに、ね?」
二人の気遣いが嬉しかったのか、
マイナの顔に笑顔が戻る。
改めて出発する三人だが、
ふとマイナが質問の続きを口にしていた。
「ねえ、ところで聞きたいんだけど、
その、『魔物の侵入を防ぐ装置』っていったいどういうものなの?」
「それは・・・、なんでしょう?
僕もそういうものがあるって習っただけで・・・。」
「実のところ、それに関しては一部の人にしか知らされてないそうだ。
まあ簡単に言うと『誰も分からない』が正解かな。」
「分からないの? どうして?」
「かつて魔王の侵攻が苛烈だったころ、
『女神の祝福』を持つ者が人々を守るために
それを生み出したとされる。」
「そうだったんですか・・・。
じゃあその装置はそんな時代から・・・。」
「その者が大陸中にそれを設置したのか、
他の誰かが広めたのかは定かでないが、
この大陸にある町の数だけあると思っていい。」
「とんでもない話ね・・・。
実際に効果を知らなかったら信じられないかも。」
「ただ、生み出された経緯のためか、
誰もそれをどうすれば作れるか分からない。
それどころか長持ちさせる方法すらね。」
「長持ち・・・? もしかして、その装置は
いずれ効力がなくなるんですか?」
「ああ・・・。 それも一定ではないらしく、
ある日突然町を守る力を失い、魔物に攻め込まれた町もいくつかある。
だから人々は守られている町へ逃げ続けたわけだ。」
「そんなことが・・・。 でもそれなら
今ある町もある日突然滅んでしまうことが・・・?」
「あり得るだろうね。 もちろん、多くの人はそれを知らない。
そんなことを気にしてたら落ち着いて生活できないからね。」
「それはそうね・・・。 できれば私も知りたくなかったかも・・・。」
「これから先、ほろんだ町や建物をどこかで見ることはあるだろう。
まあ、あまりショックを受けないようにね。」
「肝に銘じておきます・・・。」
様々な人間の秘密を多く覗いてきていたためか、
複雑な事情にも詳しいドロシー。
今ある平和はそう長いものではないかもしれないと思いながら、
マイナもレナードも歩みを進めた。
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