その9 抜け道

「さて・・・、じゃあ出発しましょうか。」


「そうだね。 必要なものも用意してもらえたし、

私はいつでも出発できるよ。」


「それで次は『ムルの町』ってところに行くのね。

胸の大きな女性がいるって噂の町か・・・、

確かに気になるわね。」



 三人でかたまって寝た翌日、

レナードたちは朝早くから改めて旅の準備をして

次の目的地についても話を終えていた。


 いよいよ出発の時間となり、闇ギルドの宿を後にする。



「次の町でも闇ギルドのお世話になるのは難しそうですね、

ドロシーさんに貰った路銀を合わせても

宿を取るのが精一杯だと思います。」


「それ以前に、闇ギルドがあるかどうかも分からないわ。

ところで町を出るときはどうしましょう?

またレナード君に背負ってもらうのか、それとも門を突破するの?」


「・・・何か不穏な言葉が聞こえてきたんだが、

二人は一体どうやってこの町に入って来たんだい?」


「実は・・・」



 レナードが町への侵入方法を大まかに説明すると、

話を聞いたドロシーは何ともいえない表情を見せた。


 壁を上って無理やり侵入したと聞かされては

そんな反応も無理からぬことだろう。



「なんというかとんでもないね、色々と・・・。

できるのがすごいのかやるのがすごいのか・・・。」


「門を通らずに入ろうとしたらこれしか思いつかなくて・・・。

そういえばドロシーさんはどうやって入ったんですか?」


「私は定期的に町を移動する行商人に混ざらせてもらったんだよ。

お金を握らせてね。 まあ、たまたま出会えたのは運が良かったのだけど。」


「・・・そんな方法があったなんて、ちっとも思いつきませんでした。」


「でも、今から同じようにできるのかしら?

行商人ってそんなに長い間滞在してなかったような・・・。」


「ちゃんと出るための方法は掴んでるから安心しておくれ、

とりあえずこっちへ来てくれるかな。」



 そう言いながらドロシーは二人を連れて

薄暗い路地へ入っていく。


 そして薄汚れた壁の前まで来ると、

大きなひびの入った壁を指さした。



「ここだよ、ここから出れば誰にも見られず

町を出ることが可能なんだ。」


「ここって・・・、壁しかないけど、

まさかこのひび割れた壁を壊すんじゃ・・・。」


「それはさすがに不味くありませんか?

誰も来そうにない場所とはいえ・・・。」


「いやいや、そんな野蛮なことはしないさ、

ほら見てごらんよ。」



 そう言いながらドロシーが壁に手をかけたかと思うと、

次の瞬間薄い石壁がめくれ、外の景色が見える。


 どうやら、元々穴が開いていた場所を

隠していただけのようだ。



「ここはこっそり出入りするのに使う場所だそうだ。

一応私もいずれはここを離れるつもりだったから、

有用そうな秘密を聞き出しておいたのさ。」


「こんな抜け穴があるなんて・・・、

確かに古い壁だとは思っていたけど。」


「なんにせよ、これは都合がいいですね。

誰にも見られない内に出ちゃいましょう。」



 まるで自分たちのような人間のために

用意されていたかのような穴を通り、

三人は何事もなく町を出る。


 できるだけ誰にも見られないようすぐさま町を離れ、

高い壁が見えなくなるまで歩き続けた。



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