その8 狭い寝床

 ドロシーが旅に加わったその夜、

三人は一つの部屋で寝泊まりする。


 もっとも普通の宿と違って部屋はかなり狭く、

二人がレナードを挟んだ状態で、ほとんどくっついたまま寝ていた。



「・・・二人でもギリギリだったろうに、

私が加わったものだから余計に狭いな、

いや、申し訳ない・・・。」


「いえ、気にしないでください、

僕の体は小さいからなんとか大丈夫ですよ、

小さいから・・・。」


「き、気にしているのかい?

その、小さいのも可愛くていいと思うよ・・・?」


「・・・ありがとうございます。」



 お互いにやや気まずいやり取りをしている

レナードとドロシーだが、

その会話にマイナは混ざってこない。


 というのも、不慣れな旅で疲れていたうえ

久しぶりに安全な場所で休めるせいか

すっかり寝入っていたのだ。



「マイナさん、もう寝ちゃってる、

やっぱり疲れてたんですね・・・。」


「彼女は旅が初めてなんだろう? 無理もないさ。」


「そういうドロシーさんは平気なんですか?

旅なんてしたことないって言ってましたけど疲れてるんじゃ。」


「ああ、私はむしろ目がさえてしまって・・・、

いろいろありすぎて眠れなくなったみたいだ。」


「そうなんですか。 ・・・あの、

差し支えなければさっきのお話を聞いてもいいですか?」


「んん? ・・・ああ、胸の大きな女性が

いる町の話かい。 といっても噂程度に聞いただけで

大した情報はもってないんだが・・・。」



 前置きをしつつ、ドロシーは

自分の知っている情報をレナードに告げる。


 ここからおよそ10日はかかる、山岳地帯にある『ムルの町』で

胸の大きな女性の話を。



「そこから来た人が言ってたそうだ、

胸の大きな女性がいるって。

ただ、今もいるか分からないしそもそも信頼性が薄い。」


「そうですね・・・。 胸の大きな女の人がいるなんて、

それを知られてる時点で捕まってる可能性が高いですもの。」


「とはいえ町から逃げたという話も聞いてないからね、

ただの嘘か、捕まってしまったのか、

あるいは捕まらないままずっとその町にいるのか・・・。」


「いずれにせよ行ってみたいと思います。

ドロシーさんは構いませんか?」


「ああいいよ、当てもないんだ、

首都から離れられるならどこだろうと構わない。」


「ありがとうございます。

マイナさんにも明日お話しましょうか。」


「そうだね。 ・・・しかし、巨乳の女性が暮らせる場所を探して

旅をするとは、誘った君も誘われてついて行く彼女も

なかなかに大胆なものだ・・・。」


「夢物語だってことは分かってます、でも・・・。」


「いや、褒めてるのさ。 私はそんなこと考えてもみなかった。

旅の途中、これから永遠に一人で逃げ続けると思うといつも体が震えていた。

いっそ捕まってしまえば楽になれるかと何度も考えたさ・・・。」


「ドロシーさん・・・。」


「いやいや、無事に町へ着いたころには

そんな気持ちは薄れていたよ。

人間、追い込まれている時には発想が極端になるものだ。」



 微笑みながら言うドロシーだが、

レナードはなんとなくドロシーが旅の仲間に加わった時のことを思い出していた。


 あの時の涙が嘘偽りとは思えず、

自分が拒否していたらどうなっていたかを想像してしまう。


 そして、できる限り優しい顔を浮かべながらこう告げた。



「ドロシーさん、あなたたちが暮らせる場所はきっとあると思います。

だからそれが見つかるまで旅を続けましょうね。」


「・・・ふふ、ありがとう。 君たちにはとても感謝してるよ・・。」



 ドロシーの声が落ち着いたことを感じ、

レナードは少しだけ安心する。


 そうしているうちにどちらともなく欠伸が出てしまい、

自然と眠ろうとしていたが、

不意に背後からマイナの寝言が聞こえてきた。



「んん・・・、待って・・・、いかないで・・・。」


「マイナさん? ・・・寝言かな。

何の夢を見てるんだろう・・・。」


「心配事がないとは言えないだろうからね、

うなされてるようなら起こした方がいいだろうか・・・。」


 二人でそんなことを言っていると、

今度はマイナの手がゆっくりとレナードに伸びていき、

そしてやけに力強く抱きしめられる。


 ちょうど頭の部分が胸の谷間に挟まってしまい、

レナードは目を白黒させていた。



「えへへ、つかまえた・・・。

もう放さないからね・・・。」


「わわっ、マイナさん・・・?

は、放してください・・・。」


「おやおや、気持ち良さそうに寝てるじゃないか。

これは心配する必要もなさそうだ。」


「いえ、あの・・・、ドロシーさん、

助けてくれませんか・・・?」



 無理やり抜け出すこともできず、

顔を赤らめながらレナードが懇願する。


 しかしドロシーはというと、悪戯っぽい笑顔で

レナードを見つめていた。



「いやいや、起こすのも悪いからしょうがないよ。

・・・しかしレナード君を抱き枕にするのはいい案かもしれないね。

これなら落ち着いて眠れそうだ。」


「ドロシーさん? 何を言って・・・。」


「というわけでちょっと失礼させてもらうよ。

んしょっと・・・。 ほう、これはなかなか抱き心地が良さそうだ。」


「わぷっ。 ど、どろしーさん・・・。」



 今度はドロシーがゆっくりと身体をせまらせ、

足を絡ませながらしっかりとレナードを抱きしめる。


 豊満な胸を左右から押し付けられ、

谷間にすっぽりと顔を挟まれ、

レナードの顔はこれ以上ないほど真っ赤になっていた。



「むぐ・・・。 だ、出してください・・・。」


「ん・・・。 動かれるとくすぐったいよ・・・♪

すまないがもう少しだけ我慢してくれ、

こうしてるとなんだか安心して眠れそうだ・・・。」


「こ、これ以上は、もう・・・、だめなんです・・・。」


「ダメって何が・・・、おやまあ、これは・・・。」



 大きなおっぱいで二人からぱふぱふされている状態のまま

平気でいられるはずもなく、レナードが大量の鼻血を出す。


 そして興奮しすぎたのか、そのまま気を失ってしまった。



「ちょっと刺激が強かったみたいだね。

まあこれで君も眠れるだろう、たぶん・・・。」


「ふわあ・・・。 私ももう限界かな・・・。

それじゃ二人ともお休み、良い夢を・・・。」



 ドロシーの瞼が自然と落ちたところで

部屋からは寝息しか聞こえなくなる。


 こうして三人は、朝までしっかりとくっついたまま眠っていた。


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