第二話 その1 無法者の侵入

 レナードの答えに安堵しながら

マイナは疲労も忘れたように歩き続ける。


 森の中を通り、茂みをかき分け、

そしてようやく正門が見える場所まで近づいたが、

そこでレナードが不意に足を止めた。



「・・・マイナさん、ちょっと待ってください、

様子がおかしいです。」


「えっ? どうしたの?」


「どうも前に来た時より見張りが多い気がします。

もしかしたら、僕たちが逃げていることは

ここにも伝わってるのかもしれません。」


「・・・えぇ、でも、そんなに早く伝わるなんてあり得るの?

だって、物品の運搬だって月に1度とかそのくらいのはずでしょう?」


「手配書のように重要度が高いものは

通常とは違うルートで素早く伝達してるのかもしれません。

恐らく誰かの『女神の祝福』が関係してるかと・・・。」


「それはともかく・・・、もし本当に手配書が回ってるとしたら、

私たち、あの町には入れないのよね・・・?」



 明らかに落胆した様子で尋ねるマイナだが、

ようやく休息ができるという希望が砕かれたことを踏まえれば

無理がないことだろう。


 しかしレナードはそれに答えず、

少し考えながら町の構造を、そびえたつ壁の高さを確認していた。



「・・・入るだけなら恐らく可能です、

ただ、問題は入ってからですね、」


「やっぱり・・・。 ・・・えっ?

入れるの? レナード君、何かいい方法があるの?」


「ええ、門番に見られないよう入る方法はあります。

そこから先はまだ考え付かないんですが・・・。」


「も、もうこの際だから問題は後回しにしましょう?

とにかく町へ入ってから・・・。」


「そうですね。 じゃあ、とりあえず見張りから隠れつつ

壁に近づきましょう。

・・・とりあえずこっち側へ回ってください。」



 希望が戻って来たことで活力を取り戻したマイナに急かされ

移動を始めるレナード。


 無事、誰にも見つからず周囲を囲う壁にまでたどり着いたが、

マイナにはここで何をするか見当がつかない。



「それで・・・、壁のところまで来たけど、

どこかに隠れた入口でもあるの?」


「さすがにそれはありませんよ、多分・・・。

じゃあ次は、マイナさん、すみませんがまた

僕の背中に乗ってもらえますか?」


「えっ・・・? ええ、・・・よいしょっと、

これでいいの?」


「は、はい・・・、後はしっかり捕まってて、

ついでに口を閉じていてください。」


「捕まって、口を閉じる? ・・・あっ、ま、まさか・・・?」


「じゃあ、行きますよ・・・!

《イヴェイユ・アウート》」



 言われるがままにあれこれしていたマイナも、

ここに来てようやくレナードの考えを理解したようだ。


 そしてレナードは女神の祝福によって

自身のスピードを強化すると、

壁を蹴って一気に登り始める。


 二人は時間にして数秒もたたないうちに天辺まで辿り着き、

そして一瞬で下まで降りて行った。



「ぶはっ・・・! はぁっ・・・、はぁっ・・・!

マイナさん、上手く入れましたよ・・・。」


「び、びっくりした・・・、なるほどね、

こうやって壁を登れば

確かに門番から見られることなく入れるってわけ・・・。」


「ま、周りを見ていただけますか・・・?

一応上から確認して、人気のない物陰に着地したんですが・・・。」


「大丈夫よ、周りには誰もいない。

上手く入れたわ。」


「良かった・・・、はぁ・・・、ふぅ・・・。」



 安全な場所であることを確かめてもらい、

レナードはゆっくりと息を整える。


 ともあれ二人は、かなり無理やりな方法だが

町へ入ることができたのだった・・・。


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