その14 夜が来て

 陽が落ちかけたところで就寝の準備を始めたレナードは、

火の始末をして鞄から布切れを2枚取り出す。



「夜はそう冷えませんけどこれをかけて寝てください。

予備を持ってたからちょうど二人分ありますので。」


「あ、ありがとう・・・、でも、その・・・、

焚き火を消しちゃって大丈夫なの?」


「夜は魔物の活動もほとんどないから大丈夫です。

奴らは人を襲うために生まれてきたと言われてて、

人が活動できない夜に休息してるって習いました。」


「そうなの、初めて知ったわ・・・。

じゃあ夜中に移動した方が安全なのかしら。」


「それは・・・、難しいですね。

明かりを使えば目立つから、下手をすれば昼よりも大量の魔物が集まるし。

魔物の活動する昼間に休息するのも厳しいですから。」


「確かにそうね、じゃあ夜はこうして

大人しくしておくのが一番かしら。」


「それが最良ですね。 こうして木陰で身を潜めていれば

魔物たちはまず気付かないです。」



 大きな木の側に寝そべりながら、

星の輝く空を見上げる二人。


 旅慣れしていないマイナはやはり寝つけないのか、

レナードに声をかけてくる。



「ねえ・・・、レナード君の幼馴染の人って

どんな人だったの?」


「えっ・・・? えっと・・・、背が高くて、優しくて・・・、

時間が空いている時はよく遊んでくれました。」


「ふぅん・・・、その人、綺麗だった?」


「それは・・・、綺麗、だったかな・・・。

髪も長くて、目も素敵で・・・、

でもあの頃はまだ、そんなことほとんど意識してませんでした。」


「そうよね、ふふ。 変なこと聞いてごめんなさい。」


「マイナさん、眠れないんですか?」


「まあ、ね・・・、いろいろありすぎてちょっと・・・。」


「眠れなくても、目を閉じて休んでおいてくださいね?

あと5~6日は野宿の必要がありますから。」


「そうね・・・、なるべく休めるように努力するわ。」


「一応、周囲は警戒してますから安心してください。

これでもずっと一人旅してきたんですから。」


「ええ、ありがとう。 じゃあ、おやすみなさい・・・。」



 自分を安心させようとする言葉に軽くお礼を言うと、

マイナは静かに目を閉じる。


 獣の声も聞こえない、時折り風で葉っぱが揺れるだけの

静かな夜ではあったが、それが逆にマイナの考えごとを促していた。



(私ったら、急に何を聞いてるのかしら。

レナード君の幼馴染について聞いたところで

知らない人探しなんてほとんど手伝えないでしょうに・・・。)


(話題がないからってこんな質問を・・・?

それとも、他に理由があるのかしら。)


(変ね、私、なんでこんなこと考えてるんでしょう。

今日はいろいろありすぎたからそのせいね、きっと。)



 その後も何度か同じような思考を巡らせながらも、

なんとか少しだけ眠ることはできたようだ。


 そして夜が明け、旅が始まり、

次の日もその次の日も歩き続ける二人。


 魔物と出くわしたりすることはあったものの、

ほぼ予定通り目的の町が見えてきた。


 やはり建物を隠すような壁に囲まれており、

マイナの生まれ故郷ともあまり変わりがない。



「マイナさん見てください、ほらあそこ!

あれがリプレスの町ですよ。」


「ああ、やっと着いたのね・・・。

レナード君は来たことがあるんだっけ?」


「ええ、ですから補給と休息が目的です。

一応、もう一度お姉ちゃんのことは探してみますが。」


「何か情報だけでもあるといいわね。

とりあえず、もう少しだから歩きましょうか。

ここまで来たら疲れたなんて言ってられないわ。」


「はい、行きましょう。

・・・手配書なんかが回ってないといいけど。」



 崖の上から目的地を確かめ、歩みを進める二人だが、

果たして無事に入ることができるのか・・・。


 一方そのころ、リプレスの町では

一人の人間が溜息を吐いていた。



「はぁ・・・、まいったねこれは。

そろそろここに隠れるのも限界が近い・・・。」


「いよいよとなったら町の外へ逃げるしかないか。

私の魔法だけでは少々不安だが、どうしようもない。」



 暗い声で独り言をつぶやくのは、

やや黒く、長ったらしいローブに全身を包み、

いかにも誰かに見られたくないといった様相の人間である。


 もっとも、その恰好自体はその場に適しており、

似たような姿の人間がまばらに座っていた。


 それもそのはず、ここは闇ギルドにある食堂であり、

いるのは何らかの問題を持つ人ばかりである。



「さて、ここでいつまでも水を飲んでばかりじゃ

時間と金がなくなるだけだ、

そろそろ支度を始めないと・・・。」



 そう言って立ち上がるローブの人間は、

ふと店の隅に貼ってある手配書に目を止める。


 ある意味では闇ギルドの通行証と言えるかもしれない手配書の中に、

見たことのない新しい顔が確認できた。



「おや、新しいのが増えてるな、

・・・ここにある顔を見かけたら、

いっそ同じ犯罪者同士で手を組むのもいいかもしれないね。」


「しかしこの2枚は他と違うなあ、

いかにも悪者です、という顔をしてない。

それどころかまるで普通の女性と子供・・・。」


「罪状は・・・、『巨乳の罪』と『巨乳の逃亡幇助』、

一番近い町から逃走中なのか。

・・・これは、もしかするともしかするかもしれないなぁ・・・。」



 ローブの隙間からわずかに見える口許が、

怪しげな笑顔を見せる。


 何かとてつもなく大きなものが、

二人を待ち受けているのかもしれない・・・。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る