その13 マイナの水浴び

 真っ赤な日が沈み始めるころ、

水辺までたどり着いた二人は既に夜を迎えるべく準備していた。


 レナードが昼間に狩った魔物の肉でマイナが食事を作り

夕食も済ませている。


 マイナは旅に向いていない自分の服を直そうと、

焚火の側で針仕事をしていた。



「レナード君がお裁縫の道具を持っててくれて助かったわ。

こんなに長いスカートじゃ歩きにくいもの」


「旅をしてるといろいろ直す必要がありますので、

・・・水も汲んだし、寝床もこれでいいかな」



 スカートを脱ぎ、膝に布をかけながら作業するマイナの方を

できるだけ見ないようにするレナード。


 そうしているうちに作業も終わったのか、

マイナがスカートを軽く掲げながらあちこち確かめる。



「・・・よし、ひとまずこれで歩きやすくなったわね。

あっ、そうだ、できればついでに水浴びしておきたいんだけど、いいかしら?」


「えっ? ・・・それは、まあ、大丈夫ですけれど、

その・・・、可能性は低いですが、ここから離れすぎると

魔物に出くわすかもしれないから、気をつけてくださいね?」


「さっき周囲を確認したけど問題なかったんでしょう?

心配しなくても、ここから見える位置で済ますから安心して」


「わ、分かりました・・・、じゃあ、気を付けて・・・、

万が一、危険なことがあったらすぐに呼んでください」


「ありがとう、じゃあ行ってくるわ」



 そう言うと、マイナは直した服を抱きかかえて

小走りに川辺へ向かう。


 その後ろ姿を見送りつつ、

レナードは少し考え事をする。



(あんまり離れてもらうのも困るんだけど、

見えちゃったらそれはそれで困るんだけどなあ・・・)



 羞恥心がないのか、気を許しているのか、

はてまた自分の体に魅力がないとでも思っているのか

すぐ側で水浴びしようとするマイナにいくらか動揺するレナード。


 そんなことは露知らず、

マイナは残っていた服や下着を脱ぎ始めた。


「やっと体を綺麗にすることができるわね、

汗や土汚れが気持ち悪かったわ」


「まだ初日で、あと5日以上はこれが続くんだ・・・、

やっぱり旅って大変ね・・・」


「だけど、レナード君のお陰でなんとか進めてる。

特に大型の魔物まで倒しちゃうのは驚いたわ」


「・・・巨乳の私でも普通に暮らせる場所か、

なんとなくだけど、彼と一緒だったらいつか見つかる気がするな」



 あれこれと独り言をつぶやきながら、

裸になって川へ入るマイナ。


 水は少し冷たかったものの、

汚れた身体を洗う感覚が心地よく感じられていた。



「ちょっと冷たい・・・、けど気持ちいいわね。

服も洗えたらいいんだけどなあ・・・」


「ま、この状況じゃ贅沢も言えないか。

早いところ済ませなきゃね。

レナード君を待たせてるし、万一モンスターがいたら危ないし」



 そうして体を清めていくマイナだが、

ふと川の流れに沿って動く影を見る。


 無論それはモンスターなどではない、

ただの川魚ではあったのだが・・・。



「えっ? 何かしら、水の中に変なものが・・・、きゃっ!?」



 泳ぐ魚は見たことがなかったのか、

跳ね上がった小さな魚に驚いたマイナは尻もちをついてしまう。



「び、びっくりしたぁ・・・、

ちらっとしか見えなかったけど、今のは魚かしら・・・、

生きてるのを見るのは初めてね。 ともあれ危険はなさそう・・・」


「マイナさん!? 大丈夫ですか! ・・・あっ」



 マイナが川から起き上がろうとしたところへ、

叫び声を聞いたレナードが咄嗟に駆けつける。


 目の前の光景を見て状況は察したものの、

とうぜん水浴びのために何一つ身に着けていない

マイナの姿もはっきりと見てしまった。



「ああ、ごめんなさいレナード君、

魚にびっくりして転んじゃっただけで、

モンスターとかがいたわけじゃ・・・、あの、レナード君?」


「あ・・・、あうあう・・・」



 声をかけてくるマイナに対し、

レナードは顔を真っ赤にして口を開閉するばかりである。


 滴った水が夕日に照らされて輝く妖艶な身体に

すっかり衝撃を受けていた。


 この世界ではめったに見られない畏怖の対象、

そしてレナードにとっては刺激が強すぎる生のおっぱいに

興奮が高まってしまう。


 そして軽く身じろぎした直後、

レナードは思い切り鼻血を噴き出していた。



「きゃっ! レナード君だいじょうぶ!?

は、鼻から血がいっぱい・・・!」


「ご・・・、ごめんなさぁい・・・!」


「えっ? ちょっと本当に・・・、

・・・行っちゃった。 どうしたのかしら・・・」



 慌てて鼻を押さえながら踵を返し、

レナードがその場を離れる。


 取り残されてマイナは状況が呑み込めなかったものの、

相手の様子からあまり大事にはならないと判断していた。


 ともあれ体も綺麗になり、マイナにとって初めての夜が、

町の外で過ごす夜がすぐに訪れる・・・。


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