その11 レナードの実力

 四つ足で歩く不気味な獣のような存在、

『魔物』の登場にマイナが息を呑む。



「あ・・・、あれ・・・、まさか、魔物・・・?

そんな・・・、ど、どうしましょう・・・」


「落ち着いてください・・・、大丈夫、あれぐらいなら対処できます。

ひとまず降りてもらってもいいですか?」


「わ、分かったわ・・・、なんとか足も動きそうだしすぐ降りるわね」



 レナードの背中から降りつつ、

マイナが目の前の魔物をこわごわと眺める。


 紫色の毛皮に身を包んだその魔物は、

強そうな牙をむき出しにしながらゆっくりと近づいていた。



「本物の魔物・・・、ほ、本当に大丈夫なの?

無理をせずに逃げた方が・・・」


「本当に大丈夫だから任せてください。

それにあいつらから普通に逃げるのは難しいです。

アジルタイガーは平地でかなりの速度を出しますから」



 レナードは腰の剣ゆっくりと引き抜きつつ

マイナから離れるように歩き出す。


 アジルタイガーと呼ばれた魔物は歩みを止めると、

長さで言えば2メートル前後の体を低くしながらうなり声を上げる。


 そして、レナードがある程度まで近づいて来たところで

二体が順番に飛び掛かってきた。



「れ、レナード君!」



 マイナが思わず叫び声を上げるが、

その直後にレナードが地を蹴って素早く駆け出す。


 そしてアジルタイガーの懐へ立て続けに潜り込み、

両方とも腹部を剣で一閃した。


 魔物たちは空中で身を捩るが、

そのまま地面へ倒れ込んで息絶えてしまう。



「ふう・・・、マイナさん、終わりましたよ」


「えっ!? ・・・えっ? もう、終わったの・・・?」



 目まぐるしく変わる状況に理解が追い付かず、

マイナが大口を開けて周囲を見回す。


 確かに魔物は二体とも、

動きそうにないことが一目でわかる状態だった。



「こんなに大きな魔物をあんなにあっさり・・・、

レナード君、すごいのね・・・」


「こいつらは他と比べたら遭遇しやすい魔物で、

その分対策も練られてるんです」


「対策?」


「ええ、実は魔物って行動が大まかに決まってるみたいなんです。

だから相手によってどう動くべきかを冒険者の養成所で教えてもらえるわけで、

逆に言うとこれができなければ冒険者になれません」


「そうなのね・・・、だからこそこうやって

魔物と出会う可能性のある外を歩けるんだ」


「はい。 あ、少し待っててもらえませんか?

こいつらから肉や毛皮を取っておきたいんですが」


「そうか、魔物の肉や毛皮って売ったりできるのよね、

分かった、じゃあ待ってるわ」



 マイナの了承を得たレナードは、一言お礼を言いつつ

魔物たちの死骸へ手をかける。


 そして荷物から短刀を取り出し

素材を次々と剥ぎ取っていった。



「うまいものね、そういうのも習ってるんだ?」


「そうですね、いろいろ教えてもらってます。

・・・ところでそんなにまじまじと眺めていて平気なんですか?

あまり見てて気持ちのいいことでは・・・」


「これでも食堂で働いてたのよ? 解体まではしたことがないけれど

血の付いた肉ぐらいはしょっちゅう扱ってたわ、

そうだ、道中のお料理くらいは私にやらせていただけないかしら?」


「わぁ、助かります。じゃあ・・・」



 嬉しそうに微笑んでいたレナードだが、

言葉の途中でいきなり別の方向を睨みつける。


 そして地面へ耳を当てたかと思うと

すぐに起き上がってマイナの方へ向き直った。



「どうやらちょっとまずいことになってしまったようです。

マイナさん、あれを見てください」


「あれ・・・、って、小さな山かしら?

・・・でもなんだか動いてるような」


「ええ、動いてます、そしてあれは山じゃありません」


「山じゃない・・・? ま、まさか・・・?」



 はるか遠くに見える大きな山のようなものを見つめる二人だが、

その山はゆっくりとした間隔で震えてるように見える。


 それどころか段々と大きくなっていく、

というよりもこちらへ近づいているようだった。



「どうやらこの辺りは奴の縄張りだったみたいです。

あのモントプラキオの・・・」


「う、うそ・・・」



 建物と比べられるほど巨大な魔物が、

二人へ着実に迫っている・・・。


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