その10 レナードの罪

 二人の間に沈黙が流れたまま、

レナードはマイナを背負ったまま歩き続ける。


 それを気まずいと感じたかどうかは定かでないが、

ふとマイナが声をかけてきた。



「・・・ねえ?」


「は、はいっ! なんですか?」


「レナード、くん、は・・・、

どうして私を助けてくれたの?

どうしてここまで力を貸してくれるの?」


「えっ? ・・・っと、それは・・・、

あの騒ぎを見てられなかったというか、

体が勝手に動きまして・・・」


「今もそうなの? ・・・要するに、成り行きってこと?」


「そう言われると・・・、否定はできません。

あ、でも途中で見捨てたりなんてことは考えてませんからね?

ちゃんと胸の大きな人でも住める場所を探しますから」


「それはありがたいんだけど・・・、

あなたの目的はどうするの? 人探し、だっけ」


「もちろん目的は忘れてません。 もしそんな場所があったとしたら、

僕の探してる人だっている可能性は高いと思います。

だからマイナさんに協力するのは自分のためでもあるんですよ」


「私の逃亡を助けたために、たぶん二人ともお尋ね者になったけど

それでも協力してくれるの?」



 その問いかけに関してはすぐに返事をすることなく、

レナードは少し俯いた様子を見せる。


 少しして顔を上げると、やや暗い声で言葉を返した。



「もうここまで言っちゃいましたから、

マイナさんには全部言っちゃいますね」


「えっ? ・・・うん」



 こうしてレナードは昔あったことを大まかに告げる。


 近所に住んでいた姉のような幼馴染と仲良くしていたこと、

ある日その秘密を自分が暴いてしまったこと。


 一通り伝えた後に、レナードがこう付け加える。



「だから・・・、マイナさんを助けたのは

あの時の罪滅ぼしのつもりでもあるんです」


「そっか・・・、レナード君はずっと罪の意識を抱えてたんだね、

でも、なんでもかんでも自分のせいにしなくていいと思うよ?」


「えっ? それは・・・、どういうことですか?」



 唐突な言葉に、レナードは少し驚いた様子を見せる。


 マイナは一呼吸置くと、優しい声で言葉を続けた。



「そうだね・・・、私はその人じゃないから確実には言えないけど、

巨乳だからこそ分かることもあるの」


「巨乳、だから・・・?」


「例えば人付き合い一つとっても、

体のことに気付かれるってリスクを考えたら

人前に出ることすらためらうわね」


「そうなんですか・・・」


「それなのに、レナード君とはしょっちゅう遊んでくれてたんでしょう?

だとしたら・・・、いつかは胸のことが知られるってきっと覚悟してたんだと思うよ」


「例えそうだとしても、やっぱり秘密が知れ渡ってしまったのは僕のせいで・・・」


「違うの、そこは問題じゃないのよ。

要するにね? その人はそれを覚悟してあなたと仲良くしてくれていたの。

だからレナード君は気に病むよりも、むしろ感謝しなきゃ」


「感謝・・・?」


「そう、仲良くしてくれたことに対してね。

・・・少なくとも私なら、自分のせいだって悩まれるよりは

仲良くしてくれたことを喜んでくれた方が嬉しいかな?」



 マイナの言葉を聞いていたレナードは、

自然と足を止めて考え込む。


 そして後ろを向くと、どこか安心したような笑顔で口を開いた。



「ありがとうございます、マイナさん、

なんだか気持ちが楽になりました。

もしもお姉ちゃんに会えたら、謝るよりも再会を喜べると思います」


「ふふ・・・、お役に立てたみたいで良かった」


(少しは、助けられた恩返しができたかな・・・?)



 心の中でそんなことを考えるマイナだが、

すっかり警戒心はなくなってしまったらしく

むしろこの状況を楽しみ始める。


 初めて見る景色はとても綺麗に思え、

涼やかな草原と木々の生い茂る森が輝いて見えるほどだった。


 魔物が近くにいるかもしれないなどという危険性は忘れ、

自分を背負う少年に対して悪戯心すら湧き上がる。



「ところで・・・、レナード君は、

その幼馴染のお姉さんのことが好きなの?」


「いっ、いきなり何を言うんですか!?

それは・・・、もちろん好きと言えば好きですけど・・・」


「具体的にはどんな風に好き?

一緒に遊びたいとか、手を繋ぎたいとか、それとも・・・」


「もう・・・! 変なこと聞かないでください!」


「いいじゃない、誰も聞いてないんだし。

こっそりと話してくれても」


「・・・マイナさん、降りてください」


「えっ? も、もしかして怒っちゃった?

ご、ごめんごめ・・・」



 レナードの真剣な声を聞き、思わず動揺するマイナだったが

異変に気付いたところで言葉が止まってしまう。


 なんと目の前には、四つ足で歩く人ならざる存在、

『魔物』が二体いた。

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