その6 生まれながらの罪人

 巨乳の女性を店の裏口から連れ出し、

いくつか建物を挟んだ路地裏で歩みを止めるレナード。


 周囲を警戒しつつ女性の様子を確認すると、

立ち止まった瞬間に膝をついていた。



「ふう・・・、ここまで来れば

すぐには追いかけてこないかな・・・」


「はぁ・・・、はぁ・・・」


「あ・・・、ごめんなさい、ずっと走らせてしまって。

息が苦しいですか? 背中を擦った方が・・・」


「息は大丈夫・・・、だけど・・・、

ずっと走ってたから胸が暴れて・・・」


「それは・・・、その、すみません・・・」



 返答に困る発言を受け、

レナードは周りを見るフリして目をそらしてしまう。


 そのまま少し時間が過ぎたところで、

女性がゆっくりと体を起こした。



「あの・・・、あなたは誰?

どうして私を連れ出したの?」


「そういえば、まだ名前も言ってませんでしたね、すみません。

僕の名前はレナード、旅をして回ってる冒険者です。

この町には6日ほど前に来ました」


「旅を・・・? 本当に?

だって、町の外は魔物がいるのに・・・、

それなのに旅をしているの?」


「はい・・・、詳しくは言えないですけど、人を探してるんです」


「そう、なの・・・、あなたが冒険者・・・」



 既に独り立ちできる年齢とはいえ、

自分よりも小さな少年が旅をしているという発言に

半信半疑な様子を見せる女性。


 しかし、そんな疑問は今どうでもよいことに気付いたのか、

やや暗い面持ちで再び口を開く



「私の名前はマイナ、助けてくれてありがとう・・・、

でも、これ以上は迷惑をかけられないからもう行くわね」


「マイナさん、ですね。 あの、行くってどこへ?」


「決まってるでしょう? お店に戻るの。

助けようとしてくれたことには感謝してるわ・・・」


「えっ・・・? ま、待ってください、

あそこに戻ったらまた・・・!」



 逃げてきた場所へ戻ると言われ、

レナードは困惑してしまう。


 マイナと名乗った女性は諦めたような表情で立ち上がり、

そのまま歩き出そうとする。


 しかしレナードは咄嗟に相手の手を掴み、

行動を制止した。


 そこでようやく女性の表情に変化が訪れ、

驚いたような顔でレナードを見る。



「どうしたの? まだ何か?

早く戻らないと余計に罪が・・・」


「だって、戻ったら捕まっちゃいますよ!

それに罪だなんて、さっきのやり取りを聞きましたけど、

マイナさんは何もしてないんでしょう?」


「そうね、確かに私は何もしてないわ・・・。

でも一つ、誰の目にも明らかな罪の証がある。

それがこの胸・・・」


「確かに、む、胸が大きい女性は罪人として扱われるようですけど・・・、

それじゃ、生まれたことが罪だなんて言ってるようなものじゃないですか!」


「・・・・・・」



 レナードが必死に訴えると、

マイナは更に驚いた顔を浮かべてしまう。


 そして、悲しげに目を伏せながら

静かに口を開いた。



「そうね・・・、認めたくなかったけど、

そう言わざるを得ないわ・・・。

私は、生まれてきたことが・・・。」


「僕はそうは思いません!

胸が大きいだけで罪になる方がおかしいです!

だからマイナさんが罪人として連れて行かれるなんて絶対にダメです!」


「・・・! あなたは、どうしてそこまで私を・・・?

私が怖くないの・・・? こんなに大きい胸をしてるというのに・・・」



 自分をかばうような発言に驚き、

目じりに涙を浮かべながら訊ねて来るマイナ。


 レナードはその質問に少し戸惑いながらも、

頬をかきながら返答する。



「怖くはありません。 えっと・・・、やっぱり詳しくは言えないんですが、

僕が探している人も、その、胸が大きい人で・・・、

とにかく、僕は巨乳の人を恐れてはいないんです、信じてもらえるか分かりませんが・・・」


「いいえ、ありがとう・・・、そう言ってもらえるだけで

なんだか救われた気分だわ・・・、

それに・・・、あなたの言う通り、胸が大きいだけで罪だなんておかしいと思えてきたわね」


「そうですよ、絶対におかしいです!

何もしてないのに罪人だなんて絶対に!」


「ええ、もう戻るのはやめにするわ。

・・・だけどこれからどうしましょう、

私が巨乳だってバレた以上は町にいられないし、結局は・・・」



 ようやく気持ちが落ち着いたのか、マイナの表情が和らいだものの

解決できていない現状に頭を悩ませていた。


 レナードも、このまま彼女を放っておけば

結局は助けなかったのと同じだと理解している。


 少し考え、ある一つの決意をした・・・。

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