その7 レナードの決断

 レナードはある決断をしながらマイナに問いかける。



「あの、マイナさん、お住まいはどちらですか?

もしも挨拶をしたい人がいらっしゃるなら急げばまだ・・・」


「私の家? あの食堂の2階に住まわしてもらってたの、

だからもう戻るのは無理よ・・・」


「そうですか・・・、それじゃあさすがにダメですね」


「どちらにせよ、もう家族はいないから話をしたい人も・・・

でもどうして急にそんなことを?」


「その・・・、町に居られないなら、僕と一緒にこの町を出ませんか?

衛兵を呼びに行くにも時間がかかるでしょうから、

急げば門番に気付かれず素通りできると思いますよ」


「えっ? 町を出る・・・!?」


「はい、そしたら旅をして探しましょう、

巨乳の女の人が普通に暮らせる場所を」



 レナードの言葉は予想していなかったらしく、

マイナは呆然と相手を見つめる。


 少ししてからようやく思案し始めるものの、

難しい顔をしながら質問を繰り返していた。



「あの・・・、それは本気で言ってるの?」


「ええ、本気です・・・、というより、この町にいられない以上は

顔を知られてない他の町へ行くしか方法がないんですから」


「でも私、旅なんてしたことないし・・・、

町の外には魔物だっているんでしょう?」


「いるにはいますが四六時中襲い掛かってくるほどの数はいませんよ、

それどころか1日2日出会わないことだってよくありました」


「それにその・・・、私と一緒に旅をするって・・・、

あなたは本当に私のことが怖くないの・・・?」


「えっ? ・・・あっ」



 質問に答えていたレナードは、

その言葉で相手がなにを躊躇していたのか察する。


 店での出来事でもそうだったが、

あの場にいた人は誰もが彼女を、その胸を恐れていた。


 その経験がまだ尾を引いているのだと気付いたレナードは

もう一度マイナに自分の目的を告げる。



「さっきも言った通り、僕は本当にマイナさんのことは怖くありません、

こう言われてもすぐに信じられないかもしれませんが・・・」


「・・・いいえ、変なことを聞いてごめんなさい、

それより、本当に早く動いた方が良さそうね、

私にはもう逃げる以外の選択はないのだし・・・」


「ええ、それじゃこっそりと移動しましょう、

僕が周りを確認しますので・・・、

あ、その前に服をどうにかしないといけませんね」



 マイナの恰好が大きな胸を見せつけているようなものだと気付き、

レナードは慌てて荷物から外套を取り出す。


 マイナは一言お礼を言いながらそれを受け取り、

自分の体を隠すように羽織った。



「ありがとう、じゃあ行きましょうか・・・、

だけど人通りが少ない道は分かる?」


「あ・・・、そうですね、じゃあ案内をお願いできますか?

人の気配は僕が確認しますので」


「分かったわ、じゃあこっちの道を行きましょう」



 路地の奥を指さしつつ、マイナが早足で歩き出す。


 曲がり角などがあるたびにレナードが周囲を確認し、

時には人をやり過ごしていた。


 着実に門へ近づいてはいたものの、

マイナはやや不安そうな面持ちをしている。



(町を出る以外に方法がなかったとはいえ、

本当に、この子を信じていいのかしら・・・)


(巨乳の女性を怖がらない人なんて見たことがないし、

内心は怖がってるのかもしれない・・・。

町の外へ出た途端においてかれたりしたら・・・)


(でもあの時に助けてくれたのは事実だし、

今もこうして胸を隠せるように服を貸してくれて・・・)


(それとも魔王の手先だとか、生まれ変わりだって言葉を信じて

何かに利用するつもりなのかも?)


(そうだとしても、私にできるのは何かあることを覚悟するだけ、

今はもう、この子を信じるしかないのね・・・)



 これまでの経験や先ほどの騒動が原因か、

レナードのことを信じきれないでいるマイナ。


 それでもなんとか目的としている門まで辿り着き、

物陰から様子を伺うところまで来ていた。


 高い壁に囲まれたこの町から出るためには、

どうしても門番が守る出入口を通る必要がある。



「なんとか着いたわね・・・、私たちのことはもう知らされているのかしら・・・」


「いえ、ここへ来る間も僕たちを探してるような人はいなかったし、

恐らくまだ伝達は来てないんでしょう」


「そっか、じゃあ行きましょうか、

上手く通してくれるといいんだけど・・・」


「とにかく行ってみるしかありませんね、

ダメだったら・・・、多少は強引な手段は覚悟しています」


(ちょうど人が出払ってるのか門番は一人しかいない、

いざとなったら『アレ』を使ってでも・・・!)



 意を決した二人は平静を装いつつ物陰から出ると、

当たり前のように出入口まで歩いていく。


 そして町を出ようとしたところで

門番から呼び止められた。

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