第59話 包囲網と貿易(2)

ーー翌日、サリサ共和国


ガイウス大公国は次の貿易相手候補であるサリサ共和国に

使者を遣わしていた。


「それで、目的は貿易だけか?」


やはり同じだ。陛下から聞いたエルヤ帝国の時の反応と同じだ。

使者はそう思った。


「はい。間違いありません。」


「そうか。貴国としてはどのような形の貿易を望む?」


「えっ・・・」


使者は呆気に取られていた。こんな質問をされるとは思いもしなかったのだ。

まあ当然ではあるが。自分が貿易を望んでいるのにどのような形が良いかなどと

聞いてくる阿呆はそうそう居ない。


ただ、エーザ公爵としては鎌をかけただけである。


使者は必死に考えた。


(陛下のお望み通りのことを伝えるか?否、それで拒否されては意味がない。

 この際、最終的には陛下のお望み通りになるように誘導できれば良い。)


「我が王は政府間での貿易を望んでいます。」


「そうか。許可証などは使うか?」


この男はどこまで非常識なのだろう。彼はそう思った。

普通はそんなことを聞いてくる奴など非常識な馬鹿か、お人好しだけだ。

しかし此奴がお人好しであるとは到底思えない。

かと言って滅ぼされた国を復活させた男だ。非常識な馬鹿であるはずがない。


「はい。使います。」


「そうか。デザインなどの準備はそちらでしてくれ。他に何かあるか?」


「ありません。」


「分かった。下がって良いぞ。」


「失礼します。」



「予想通りですな。」


「ああ。うまく策にはまったな。」


「ええ。しかし・・・」


「お前。例の件が心配か。」


「はい。付け入る隙を与えたら終わりですから。第1印象があれですよ。」


「ああ。まあ、あえて向こうが俺を見縊るように仕向けたがな。」


「ただ、謀反はまずいですよ。ブルーイン帝国は運良く他国に

 攻め入られませんでしたが・・・」


例の件とは、派閥争いである。

サリサ王国時代、高官だった貴族らと中・下級貴族が対立しているのだ。

ブルーイン帝国とで起きた派閥争いと違う点は、民衆も

関わっているという点である。


自らの立場を上げようとし、貴族制を重視している保守派。

そして、エーザ公爵の政治方針に従い、民衆も重視する革新派。


前者はサリサ王国で高官として権力を振りかざしていた貴族や

彼らと仲の良い貴族。また、エーザ公爵の政治方針に反発的な上級貴族。

彼らは自分達の立場を重視し、エーザ公爵の左遷を狙っている。


後者は権力を振りかざしていた貴族達に反感を持っていたり、

彼らの陰謀で左遷されたり、エーザ公爵の政治方針に賛同的な中・下級貴族ら。

彼らは民衆も味方につけ、改革を推し進めようとしている。


もしも戦になれば確実に滅ぼされる。何せせっかく滅ぼした国が再興したのだ。

隙があれば潰しにかかってくるのは間違いない。


ならば穏便に済ます。それが一番だ。しかし、そう簡単に保守派の奴らが

納得するはずがない。


どうするか。

戦で滅ぼす。否。これも他国から見れば隙だらけ。

放置する。否。いつかは必ず戦になる。

話し合いをする。否。本来はそうしたいが奴らが応じない。

それに、隙を見て殺されてもおかしくない。


ああ。私はどうすればいいんだ。昔、仲の悪かった貴族にこの世で一番信頼を

寄せていた妻は殺された。そいつは裁かれ、領地を取り上げられて爵位を

剥奪された。でも、いくら罰を与えても一度消えた命は帰ってこない。

息子とは妻が殺された時から仲が悪い。

「父上のせいだ。父上のせいで母上は殺されたんだ。」

自室でそう延々と言っていたとメイドから聞いた。

恐らく、現実を受け入れられず、自暴自棄になったのだろう。

齢17で独立。不安定な精神で領地をろくに治められる訳がない。

領土を幾度となく減らされ、公爵の私の息子は子爵にまで成り下がった。

ここぞとばかりに他の貴族が王に付け入る。

我がエーザ公爵家はサリサ王国王家の分家だ。そのため王家とは

お世辞にも仲が良いとはいえない。それなのにこのザマだ。

私がこの国を再興させられたのも我が公爵家が王家の血を引いているからだ。

そして、私が王にならなかったのはあの王家との決別の意思でもあった。

なのに、民衆の支持を得るためだ、印象をよくするためだだとか、

仲の悪い連中はそれしか言わない。改革も保守派のせいで進まない。


もうダメだ。精神が持たない。確か鬱病とか言ったか。息子もそうだった。


私はどうすれば良いんだ。

もう日没か。少し風に当たろう。

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ついにカクコン9が始まりましたね!

他の作者の皆さんも頑張ってください!!

僕は規定の10万文字に達するかどうか・・・ 頑張ります!


さて、精神が壊れたエーザ公爵はどうなるのか・・・

次回もお楽しみに!

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