第58話 包囲網と貿易(1)

ーーエルヤ帝国


「長旅、ご苦労であった。」


「はっ」


「で、何のようだ。」


エルヤ帝国にはガイウス大公国の使者が来ていた。


「我が主君は貴国との貿易を望んでいます。」


「ほう、それで?」


「できれば、貿易をさせていただけると・・・」


「軍事関連の同盟などはないな?」


「はい。」


「そうか。しかし、貿易をしていることで同盟を結んでいると周囲の国に

 勘違いされても困る。あくまで我が国は中立国でありたいからな。」


「はぁ・・・」


「取り敢えず、此方で考える。

 決まり次第、其方に使者を遣わす。お主は帰ってよい。」


「はっ」


「下がって良いぞ。」


「失礼します。」



「やめた方がいいな。」


「ええ。特定の商人が稼ぎすぎて貴族並の権力を持たれては困るし、

 競争がなくなるとまずいですから。メリットは無に等しいです。」


「だな。ただ、それなら国が買い、商人に売るという手段を取れと

 言う者もでるだろうな。そうなった場合、お前ならどうする。」


「その際は国内、国外の状況にもよりますな。」


「そうか。そういえばお前はこれまでは客人扱いだったな。

 これまでの功績を評価して宰相にならんか?」


「それは貴方様の臣下になれと?」


「形の上ではだ。流石に客人の立場だと限界があるしな。

 俺に対する態度とかは儀礼時以外はこれまで通りで良い。

 それに、給料もでるようになり、人も雇える。

 正式に帝国民になったからな。あと、宰相になるからな。

 箔を付ける必要がある。しかし、ニホンの名前だと言いづらい。

 今日からお主はヨシカ・ニッツ公爵だ。」


「分かりました。」


日本人である仁田義和にったよしかずはエルヤ帝国民のヨシカ・ニッツ公爵となった。



ーー2日後


「取り敢えず政府間の貿易ということで良いな。」


「「「はい。」」」


「では決定だ。ガイウス帝国に使者を遣わす。」


「はっ」



ーー翌日


「先日の貿易の件について我が王からの返信をお伝えに参りました。」


「おお!それで、貿易はして良いか?」


「はい。貴国ではまず、許可証を政府より商人に渡し、その許可証がある者のみ

 我が国との貿易を許可します。許可証の無効化や新規発行は貴国の自由です。

 ただし、貿易は我が国の政府の担当部署に売っていただき、それを我が国の

 商人に此方から売るという形になります。」


「そうか。では、許可証のデザインを考える。

 客室を貸すから少し待ってくれ。」


「畏まりました。」



ーー翌日


「これが許可証のデザインだ。このデザインの許可証を持っている商人が

 貴国と取り引きできるのだろう?」


「その通りです。」


「貴国からの商人はどうするのだ。」


「こちらの許可証を持っている商人が貿易できるようにします。」


「そうか。これも我が国の政府経由だが、問題ないな?」


「問題ありません。


「そうか。

 ご苦労であった。下がって良いぞ。」


「はっ。それでは、失礼します。」


結果としては貿易はできるようになったものの朝貢の形を取らせるという

目論みは見事に砕け散ったのであった。

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