第5話 

「じゃあ、帰りはこの子についていってね。町まで案内してくれるから」


 そう言って、女性は僕の肩に乗った蝶を指差した。蝶は、まかせなさいと言わんばかりに羽を上下に動かしている。


「あと、一応、さっき君の体に魔法かけといたから。君が明日森に入れば、この子が迎えに来てくれるよ」


「え? い、いつの間に?」


「ふふふ。魔女ともなれば、相手にこっそり魔法をかけるのなんて造作もないんだよ」


 杖を見せながらドヤ顔を浮かべる女性。自身に満ち溢れたとはこういう姿のことを言うに違いない。


「えっと。き、今日はありがとうございました。ま、魔女さん」


「……うーん。微妙」


「び、微妙?」


 何か変なことを言ってしまったのだろうか。それが分からず、僕は首をかしげる。


「魔女さんっていうのは他人行儀に聞こえるよね。もっとこう、他の呼び方がいいな」


「他の呼び方…………じゃあ、魔法を教わるわけですし、『師匠』とか」


 僕がそう提案すると、女性の瞳がキラリと輝いた。


「いい! いいね! 私、『師匠』って呼ばれたことないから新鮮だよ!」


「お、お気に召したようで何よりです」


 まさか、そこまでテンションを上げて喜んでくれるなんて思ってもみなかった。まあ、本人がいいのならそれに越したことはないだろう。


「じゃあ、これからよろしくね。弟子君」


 右手を僕に向かって差し出す女性。きめ細やかな肌。透き通るような白。まるで有名な美術家が作り出したかのような美しい手。


 僕は、恐る恐る手を重ねた。女性の体温が、じんわりと伝わってくる。これまで感じたことのない、優しい優しい温かさ。僕の心臓の鼓動が、ほんの少しだけその速度を増す。


「よろしくお願いします。師匠」

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