第4話
「そのせいで、家族にも、町の人にも馬鹿にされたりして。一人で特訓したりもしましたけど、全然だめで。毎日、すごく肩身が狭いんです。自分が嫌になるんです。今日だって、いろんなものから逃げたくてこの森に入りました」
頭に浮かび上がる光景。僕への嘲笑。非難。失望。昔も今も続く、終わらない日々。
「魔法の杖は、僕のあこがれなんです。だから、さっきじっと見ちゃって。まあ、こんな話、家族とか町の誰かにしちゃったら、『お前には一生縁のないものだよ』って馬鹿にされちゃうんでしょうけど」
震える声。乾く唇。何かが僕の中からあふれてきそうになる感覚。それを押さえつけるために、僕は無理矢理口角を上げた。
「ほんと、どうして僕は魔法が使えないんでしょうね」
「…………」
女性は、僕のことをじっと見つめていた。何も言わず。僕の心の中を覗き込むように。
風が、僕たちの間を通り抜けていく。女性の金色の髪が、フワリと風になびく。それと同時に、甘い香りが僕の鼻腔をくすぐる。
「……よし」
女性は何かを決意したように立ち上がった。首をかしげる僕に向き直り、優しい笑顔を浮かべる。
「私と特訓しようか。明日から」
女性の口から飛び出したのは、僕の予想だにしない言葉だった。
「と、特訓?」
「そう。特訓」
「い、いやいや。どうしてそうなるんですか。第一、できる限りの特訓はもう自分で……」
「大丈夫。私、結構魔法には詳しいから。昔は『魔女』って言われてたし」
「……え?」
魔女。それは、魔法使いよりも高位にある存在。魔法を極めた女性のみに与えられる称号。
まさか、目の前にいる女性が、魔女さんだったなんて。もし、僕が魔女さんから魔法を使えるように特訓してもらえたとしたら、もしかしたら……。
「君は魔法の特訓ができる。私は暇つぶしになる。いい提案だと思うけどな」
「…………」
「あとは君の返事次第だよ。私は問題なし。むしろ、大歓迎。どうせ毎日暇だしね」
「…………」
気がつくと、僕は首を縦に振っていたのだった。
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