第2話 

 木々の間をただひたすらに抜け、大きな川を横切り。そうしてたどり着いた先に見つけたのは、太陽の光がさんさんと降り注ぐ開けた場所。そして、倒れた太い木に腰かけている一人の女性。


 長い金色の髪。大きな花の髪飾り。透き通るような白い肌。紫色のシャツに身を包んだ彼女は、物憂げな表情を浮かべながらどこか遠くを見つめていた。


 これまで感じたこともないような感情が僕の中から湧き上がる。心臓の鼓動が急激にその速度を増す。どうしてこんなところに? そんな当たり前の疑問すら浮かばないほど、僕は彼女の幻想的な姿に見入ってしまっていた。


 どうやら、彼女は、僕の存在に気づいていないようだ。遠くを見つめながら、「はあ……」と小さくため息を吐く。


 そして一言。


「世界、滅びないかな」


 …………


 …………


 ふう。


 なるほど。


 なるほどなるほど。


 …………


 …………


 ただのやばい人だった。


 こうしちゃいられない。早くここから去らなければ。森の中で迷っているならまだしも、やばい人に遭遇なんて。見つかったら、何をされてしまうか……。


 僕は、ゆっくりと踵を返す。だがその時、足元から「パキリ」という枝の折れるような音。


「ん? 誰?」


 見つかった!


 急いで走り出す僕。森の木々に紛れればなんとか逃げ切れる。そんな期待を込めて、足を必死に動かす。


 だが、次の瞬間、僕の足はピタリとその動きを止めてしまった。


「……え?」


「もう。急に逃げないでよ」


 背後からは女性の声。それと同時に聞こえる足音。おそらく、彼女がこちらに近づいてきているのだろう。逃げたいのに、足が全く動かない。まるで、足を何かに掴まれているかのように。


「なんなんですか!? 僕の足、どうなっちゃってるんですか!?」


「どうなってるって……魔法で君の足を動かなくしてるだけだよ。君が急に逃げようとするから」


「魔法で!?」


 僕は、顔を女性の方に向ける。どうやら、魔法がかかっているのは僕の下半身だけで、上半身の方は自由に動かせるらしい。


 女性の手には、三十センチくらいの細長い木の棒。それは、魔法使いが魔法を扱う際に使用する杖。僕には何の意味もない、憧れのもの。


 女性は、ニコリと笑いながら、僕にこう告げた。


「ねえ、君。ちょっと暇つぶしに付き合ってよ」

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