導きの蝶と魔女の暇つぶし

takemot

第1話 

 森の中。


 生い茂る木々。木と木の間から地面を照らす太陽の光。肺を満たす爽やかな空気。そこにあるのは、得も言われぬ非日常感。


 昔、魔法使いの知り合いが、「森の中では魔力が上がるんだよ」なんて言っていたが、もしかしたらこの非日常感がそうさせるのかもしれない。僕は魔法が使えないからよく分からないが。


 ゆっくりとした足取りで森の中を歩く僕。木々の根に足を取られないよう慎重に。時折、肩にかけたポシェットを外し、逆の肩にかける。


 一体どれほど歩いた頃だろうか。僕は、ピタリと足を止め、空を見上げながらこう呟いた。


「誰か助けて~」


 いや、うん。気づいてたよ。自分が迷子になってることくらい。けど、認めたくないじゃん。森の中に入ったら迷子になっちゃいましたなんて。子供じゃないんだから。僕、もう十六歳なんだから。十六歳っていえば、いい大人なんだし。って、今はそんなことどうでもいいや。早くこの状況を何とかしないと。うう。お家帰りたい。お家帰ってベッドに横になりたい。


 僕は、先ほど以上にゆっくりと足を進める。正直なところ、座り込んでしまいたい。けれど、そうしたところで何の解決にもならないことは目に見えているから、歩くしかない。幸い、体力だけはまだ残っている。


「日暮れまでに出口を探さないと。でも、それができなかったら……ひええ」


 情けない声が、僕の口から漏れる。


 その時。


「え?」


 不思議な光景がそこにあった。一匹の蝶が、僕の目の前で羽をばたつかせていたのだ。まるで、僕に見つけてくれと言わんばかりに。しかも、その胴体は紫、羽は薄青。見るからに普通の蝶ではない。


 自分が認識されたことを理解したのだろうか。蝶は、僕の周りを一周すると、木々の間をすり抜けながら飛んでいく。僕が呆然とそれを眺めていると、蝶はこちらに体を向けて動きを止める。


「ついて来いってこと?」


 僕がそう言うと、蝶は肯定を示すように上下に飛行する。


「……分かった」


 もしかしたら危険が待っているかもしれない。けれど、そんな不安以上に、この蝶を追いかけたいという好奇心が、ムクムクと僕の中から湧き上がっていた。

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