第13話 距離

 まみちゃん、元気出してくれるといいけど。俺はリビングでそんなことを思いながら、ぼんやりと漫画を読んでいた。すると東雲がやってきて俺に言った。

「もうすぐ9時だぜ。学校に行こう」

「そうだな」

 体を起こしてソファから立ち上がる。

「泊まらせてくれてありがとな。楽しかったぜ」

「うん。……正直俺、こんなにみんなと仲良くなれるとは思ってなかったよ」

 可愛らしいことを言う奴だ。

「俺もそう思うよ」

 空は晴れ渡っている。

「毎日学校に集合する俺達っていい子だよな」

 何気なくそう言うと、東雲は笑って頷いた。

「間違いない」

 女子二人もやってきた。

 5人で連れ立って学校までの道を歩く。

 相上さんが俺の横にいた。

「沙川くん、犬飼ってるんだよね」

「うん、飼ってるよ」

「私もトイプードル飼ってるんだ〜」

「え、マジ? 写真見たい」

 相上さんが見せてくれた写真には、笑顔の相上さんと茶色のトイプードルが並んで写っていた。

「可愛いね」

 何故かどきまきした表情でこっちを見られた。

「え、あ、ハナコが? ありがとう」

「ハナコっていうんだ」

「そう、弟が名づけたんだ」

 嬉しそうに話している相上さんは可愛らしかった。さなちゃんといっぱい話してあげて、と言っていたまみちゃんの声が甦る。これからもっと親しくなるかもしれない、という予感がした。

「そういえばね、また昨日コンタクトがあったの」

「例の生命体からか?」

「そう。機嫌よかった。なんかもうすぐ返すかもって」

「そうなんだ」

 相上さんがきょとんとした顔でこちらを見る。

「嬉しくないの?」

「うーん、なんか今の状態がすごく居心地良く思えてさ……微妙な気分」

「あはっ、そうなんだ」

 相上さんが笑う。

「でも分かる。私も、ずっとこのままでもいいような気がしてる。でもやっぱり、都合のいい世界にずっといると腐るような気もするし……」

「そうだよな~、あまりに完璧すぎるよ、この状況は」

「沙川くんもそう思う?」

「うん。完璧すぎて、慣れたら元の世界に戻れなさそう」

「だよね」

 そう言う相上さんの表情は大人びていた。

「沙川くんは帰ったら何したい?」

「うーん、バスケしたい」

「部活好きなんだねぇ。私も早くフルート吹きたい」

「相上さん、マジでフルート似合うよな」

「え、そ、そうかな。嬉しい……」

 頬を赤くしてそう言う相上さん。これってもしかして……。

「……今度、吹奏楽部、コンサートするんだ。……よかったら、沙川くんも来て、ほしいな」

 俺も耳が熱くなってきた。

「え、あ、うん……楽しみにしてる」

 指先が触れるか触れないかくらいの距離感に照れた。

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