第10話 ゲーム

 夢を見ていた。夜の海の底に、僕は沈んでいく。口からは白い気泡が溢れ、胸が圧迫されていく。声が出せない。苦しい。体全体が重りになったみたいに自由が効かない。もうこれまでか、と思った時、誰かが僕の腕を掴んだ。急速に上方に引き上げられる。気がつくと、浅瀬で相手がこちらを見て微笑んでいる。東雲だった。僕を救ってくれたのは東雲だったのだ。

「東雲……」

 ありがとう、と言おうとして、目が覚めた。誰かが洗面所の方で話している声が聞こえる。ソファの方を見ると、東雲が寝ていた。沙川くんはもう起きているらしい。

「おはよ、香川」

 沙川くんが入ってくる。

「おはよう、沙川くん」

「香川って俺のこと君付けするよな。東雲は呼び捨てなのに」

「あ……たぶんあんまり親しくないからだと思う」

「言うね〜」

 しまった、直に言い過ぎた。幸いにも沙川くんは吹き出している。

「俺、なんか妬けちゃうな。下の名前で呼んでよ。そしたら東雲に一歩リード!」

「え……辰則くん?」

「いいね〜、ぐっと距離縮まった気がしない? 気だけか! わはは! 俺も香川のこと下の名前で呼ぼ〜、靖だよな?」

 真の陽キャって、僕みたいな陰キャにも優しいからすごいよな。それに距離の詰め方がエグい。

「え、うん……」

「ごめ、嫌だった?」

「え、いや、違うんだ、なんかあまり呼ばれ慣れてないからどう反応したらいいのか……」

「靖面白いわ〜」

 にひひ、といった表情で辰則くんが笑う。

 僕らの会話のせいか、東雲が「ううん……」と唸った。

「はぁ……起きた……お前らもう起きてたの? まだ7時だぜ?」

「なんか目ぇ覚めた」

「僕も……」

「俺朝弱いからな〜」

 ガシガシと頭を掻く東雲。目がまだ寝ている。

「東雲、俺さぁ、まみちゃんに告ることにしたわ」

「マジか。何があったんだ」

「気持ちだけは伝えとこうかなぁって」

「いいんじゃない」

 なんだろう……全然知らない話が進行している。辰則くんて飯田さんのこと好きだったんだ。

「それに、もしかしたらもしかするかもしれない」

「……そうだな」

「お前には好きな人がいるわけだし……あ」

 え? 東雲って好きな人いるの?

 僕が東雲を見ると、東雲の顔は真っ赤になっていた。じろりと辰則くんを睨んでいる。

「わ、わりぃ……悪気はなかったんだ……」

「分かってるよ……もー」

 またよく分からないやり取りだ。好きな人がいることを僕に知られるのがまずかったのだろうか? それは何故?

「なんでもないってことで。俺頑張りまーす」

 そう言い残して辰則くんは退散した。まだ頬を赤く染めている東雲が僕に言った。

「なんでもないから」

「え……あ……うん」

 僕はハミられているのかな?

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