第9話 嫉妬

「なんか、悪いね、男子たちに」

 暗い部屋、ダブルベッドに寝転がりながら飯田さんが言った。

「うん……こんなおっきいベッド使わせてもらっちゃってね」

「そうだね……ねぇ、さなちん」

 飯田さんがこちらに寝返りを打つ。

「さなちんって、沙川のこと好きなの?」

「どはぁ!?!?」

 思わず体を勢いよく起こしてしまった。

「ななな、なんで!?!?」

「だって、なんにもない時にも、よく目で追ってるし」

「えっえー……鋭い」

「こういうの見抜くのには長けてるんだよねー!」

 ウインクする飯田さん。

「で?」

「で……とは」

「告白するの? 付きあっちゃうの!?」

 めちゃくちゃ楽しそう。ううう……そんなの考えられない。

「っていうか、沙川くん人気だし……」

「でもここじゃ5人しかいないよ? 競合他社いないよ?」

「ふふ、競合他社。確かに」

 沙川くんは明るくて、優しくて……こんな状況になったから、沙川くんのいいところが知れた。それはとても嬉しいことだ。

「でもだめ。沙川くんにはもっといい人がいると思うから」

「えーっそんな」

 飯田さんの眉根が下がる。残念そう。

 だって沙川くんが好きなの、きっと貴方だよ。ずっと見てきたから分かる。沙川くん、ぶっと貴方のこと見てるもん。

「きっと時が解決してくれるよ」

 私は枕の下に手を入れて、そう言った。何も知らない飯田さんは、不満そうに口を尖らせた。


 翌朝、下に降りると男子たちは思いおもいの体勢で寝ていた。沙川くんはソファで足を広げながら。東雲くんはミイラみたいな正しい姿勢で。香川くんは床で、眠り姫みたいなポーズで。性格出てるなぁ。起こさないようにそっと側を通り抜け、お手洗いに向かう。洗面台で手を洗っていると、沙川くんがやってきた。

「ふあぁ……おはよ、相上さん」

「おはよう、沙川くん」

「突然だけど、俺告白するわ」

「えっ」

 ほんとに突然だ。

「……飯田さんに?」

「えっ分かってた?」

 狼狽えてる沙川くん。ぎゅうと心臓が苦しむ。それを悟られないように笑顔を作る。

「バレバレだよ。沙川くんって分かりやすいから。……頑張ってね」

「お、おう……気持ち伝えるわ」

 少し染まった頬。ちょっと悲しくなってきて、私はタオルで手を拭いて、その場を後にした。幸せそうに眠っている飯田さんの頬をちょっとつねる。

「ん……いて……なに……? さなちゃん……?」

 さなちゃん、だって。ほんとは心の中でそう呼んでいるのだろうか。

「……ごめんね」

 頬を人差し指の背で撫でる。飯田さんはむにゃむにゃとまた眠りの中に入っていった。私はしばらくその寝顔を見ていた。

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