第8話 対戦

 まみちゃんやたらWii強いじゃん。びっくりした。相上さんは弱くて可愛い。イメージ通りだ。東雲と香川は仲良さそうに洗い物をしている。そこでもうくっついちまえよ。そしたらまみちゃん、俺のところに来ないかなぁ。

 などとアホなことを考えていると、まみちゃんにまた負けた。

「げ〜〜、まみちゃん強いなぁ!」

「弟とよくやってるんだよねぇ」

 いたずらっぽい顔でそう言う。

「東雲、対戦しようよ! こいつら弱すぎ!」

 まみちゃんはそう東雲に声をかけた。

「え〜、俺飯田より弱い自信しかないよ」

 といいつつ、やってきた東雲は互角にまみちゃんとやり合っている。

「あ〜〜負けた〜〜〜! 東雲強いね!」

「まぁうちも兄貴がいて、よくやってるから。そうだ、みんな今日泊まるでしょ?」

「えっもうこんな時間か。確かに帰れないや、暗いし道分かんない」

 まみちゃんが時計を見て驚いている。

「東雲くん、いいの……? そんな何から何まで」

「いいよ、女子はうちの両親の部屋使って。鍵閉まるから。男子はここで雑魚寝な」

「まぁそうなるよね〜〜」

「いまから風呂沸かすから。飯田と相上、どっちかから先入って」

「レディーファーストね、東雲。女子からモテるだろ」

 俺がそう言うと、東雲は「そうでもないよ」と苦笑した。

 二人が風呂からあがり、一旦栓を抜きに行く東雲。細やかな気遣いだ。

 温泉じゃないのに足を伸ばせる風呂に入ったのは久しぶりだった。髪を拭きながらリビングに戻ると、東雲がアイスを食べながら本を読んでいた。

「女子二人、もう上がった」

「そっか」

 虫の声が遠くでわんわん鳴いている。東雲の向かいのソファに腰をおろして、なんとなく東雲が本を読んでいる様子を眺める。

「読書家だよな、東雲って」

「そうかな。本を読むことは好きだけど」

「お前って、学校でもそうやって読書してて、人から距離取ってるように見えるけど、一目置かれてたりするよな。羨ましいぜ、そのポジション」

 なぜだかすらすらとそんなことを言っている自分に驚いた。何言ってるんだ。

「お前のこと好きな人だって、俺知ってるんだぜ」

 東雲はきょとんとした顔をした。これ気づいてないやつだ。

「……へぇ。俺、好かれてるとかあんま気にしないから気づかなかった。誰?」

「……俺から言うかよ」

 なけなしの自尊心だ。このモテ男め。

「……好きな人から好かれたいしね」

 一瞬見せた色香ある瞳にどきりとした。なんだどきって。でも、同性のそういう表情を俺はあんまり見たことがない。大人びた奴だとは思ってたけど。

「それに、男女問わず人気者な沙川に言われたくないな」

「えっ、そんなことないし」

「謙遜乙」

「なんだよ乙って、俺だって好きな奴に好かれたいわ! お前がかっさらって行きやがって」

「え……なんの話? まさか俺が知ってる人?」

「うぐっ……そうだよ、まみちゃんだよ」

「マジか」

 東雲は目を丸くした。

「なんというかそれは……ご愁傷様です」

「腹立つな〜。はい、俺が言ったからお前も言うんだぞ、誰が好きなんだ? まみちゃんじゃねぇだろな」

「俺は……」

 心なし頬を赤くして、東雲は少しの間逡巡していたっぽいけど、やがてぽつりと言った。

「……香川だよ」

 おおマジか。……って、そうすると。

「え……じゃあさっき思ってたのって当たってるじゃん」

「何が……?」

「二人がくっつけば俺はまみちゃんにいけるって思ってたんだよ」

 緊張していた東雲の表情が破顔する。

「何それ、お気楽な発想だな」

「だってさ〜〜、お前ら仲いいんだもん」

 わいわい言ってると、香川が風呂から上がってきた。すんと黙る俺達。

「え、何……僕なんかした?」

 うろたえる香川が面白くて、二人で笑ってしまった。

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