第6話 王様ゲーム

「え〜〜〜! 東雲んちって豪邸じゃん! すっげ〜広い!」

 沙川が小学生のように大きい声をあげた。

「そうか?」

「いやそうじゃん! 部屋何個あるのこれ」

 4人をリビングに通す。家族の痕跡が色濃く残っていた場所に。

 戸棚からたこ焼き器を出して、食卓に乗せる。

「こんな家の戸棚にもたこ焼き器あるんだな」

「なんだよそれ」

 ふふっと笑ってしまう。

「スーパー近くにあるんだよね?」

「うん。買い出しに行くメンバー決めないとね」

「王様ゲームで決めようぜ!」

 家にあった割り箸でくじを用意する。

「ほい」

「あ、私が王様だ」

 飯田が赤い端を見せる。

「じゃあ、1番と3番が買い出しね」

「あ、俺だ」

「僕も」

 俺と香川か。

「え、家主じゃん!」

「家貸してくれてんだから東雲は行かなくていいよ」

「いいよ、俺行ってくる。な、香川」

 香川は関係ないのに申し訳無さそうな顔をしている。

 家を出ると、蝉が鳴いていた。

「ごめんね、東雲くん」

「なんで香川が謝るんだよ」

「だって……」

「香川は真面目すぎ。自分には関係ないことまで背負い込まなくていいんだよ。それに、香川と二人で話せるし」

「でも……僕だけじゃ、つまんないでしょ」

 何を言っているんだろうか。

「そんなわけないだろ。俺、香川と話すの好きなのに」

 香川は黙った。蝉の声は夜になってきたからか、小さくなっていた。

「……そんなこと言ってくれるの、東雲くんくらいだよ」

「内心思ってる奴、多いと思うけどなぁ」

 香川は何をそんなに諦めているのだろうか。

「そんな自分を卑下しないほうがいいぜ。せっかく香川、いい奴なのにさ」

「……そんなことない。だって、僕、帰りたくないって思ってるんだ。みんなは帰りたいって言ってるのに」

 香川は苦しそうな顔でそう言った。

「僕みたいな奴、みんなに嫌われて当然なんだよ」

「というか……香川がもし残る選択をしたら、その時は確かにみんなお前のこと嫌いになると思う。嫌いというか、苛立つというか」

「……そうなの?」

「うん。だって香川、自分のことばっか考えすぎだもん。もっとみんなの気持ち考えてやってよ」

「でも別に僕一人どうなったって……」

「それだよ。考えれてない。みんな香川のこと好きだよ。少なくとも嫌ってはないし、仲間だと思ってる。なのに香川はその思いを振りほどいてどこか遠くに行こうとする。それがみんなが嫌なことだよ」

 香川の横顔は迷っていた。

「……僕、ここにいてもいいのかな」

「むしろいてくれなきゃ困る。少なくとも俺は困るよ」

 香川はぎこちなく微笑んだ。

「ありがとう、東雲くん」

 それからは、普通の会話をしながら買い出しをした。香川がどう思ったのかは分からない。何かいい方向に気持ちが変わっていたらいいなと思う。

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