第5話 side香川
帰りたくない。それが僕の切なる思いだった。でも他の皆は帰りたいって言ってる。そうだよね。みんな帰りたいんだ。それが普通。でもさ……もうちょっとこっちに居たい。
学校はあまり好きではなかった。友達もそんなにいないし、勉強もほんとは好きじゃない。でも、勉強さえしていれば、そのうち景色が変わるんじゃないかと期待していた。まだ変わらないけど。ガリ勉だと思われていてもよかった。ガリ勉の割に成績はそこそこだったけど、やらないよりマシだと思っていた。でももう疲れた。もしもみんなが帰ることができたとしても……僕はそっちを選ばないかもしれないと思った。ここは極楽だ。ライフラインは整っていて、飢える危険もない。一人になったら、きらきらしてる他人もいなくなる。劣等感を感じずに済む。
東雲が俺を見ている気配がした。もしかしたら、この気持ちを見抜かれているのかもしれない。東雲とは学校でたまに話す仲だった。心の深いところまで話したことも一度だけある。それに彼は鋭いから、なんでもお見通しなのかも。でもどうでもよかった。僕は帰らない。
飯田さんが机に突っ伏した。
「でもいつになったら帰れるんだろ〜〜」
「まぁ気楽に行こうぜ。今日タコパしよタコパ」
「俺んち、たこ焼き器あるから持ってくるよ」
「なら東雲んちでやろうぜ。いいよな?」
「無問題」
「え、ほんとにいいの……?」
「遠慮しないで、相上さん」
みんなは青春してていいな。僕にはその能力がない。口ベタだし、暗いし。
「香川も来るだろ?」
東雲が真っ直ぐな目でこっちを見てくる。
「え……あ、うん。行く」
なんでそう言ったのかは分からなかった。でも。何かが変わるかもしれないという、その期待が、まだ自分の中にあるのだと、そう思った。
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