第4話 side相上
「なにそれ、面白いから私達をここに置き去りにし続けてるわけ? ふざけてる」
飯田さんが怒ってる。
沙川くんが話してくれたおかげで、私はみんなに秘密を持っている必要がなくなった。本当によかった。あの時来てくれて嬉しかったな……。
「帰してくれるように交渉とかできない?」
飯田さんがこちらを真っ直ぐ見てきた。
「あの、言いにくいことなんだけど……あれから全然コンタクトが取れなくて」
「も〜〜、なんなのよそいつらぁ〜」
飯田さんが頭を抱えた。私だってそれに気づいた時抱えた。“それら”が何を考えているのか分からない。
「とにかく、しばらくはまだここで生活することを考えなくちゃいけないな」
東雲くんが顎に手を当てて言った。
「でも不思議なのはさ、食料が腐らないことだよね」
香川くんがそう言うと、みんな頷いた。
「だよな。時間は流れてるのに、まるで都合のいいところには流れてないみたいだ」
「それもその異星の生命体とやらの仕業かね?」
「どうなんだろうね〜」
沙川くんは椅子をぎこぎこと揺らせながらポータブルゲームをしている。
「電気も水道もガスも問題ないしな……飼われてるのか? 俺たち」
「やだね〜」
「なんかこういうアニメあったよな……」
「だとしたらバッドエンドじゃん、最悪」
「え、飯田知ってんの?」
そこからしばらくアニメの話になった。なんか緊急事態ではあるけどお気楽だ。それが若いということの利点なのかもしれない。
「でもさ……僕ちょっと思うんだ。このまま帰れなくてもいいかもしれないって……」
香川くんがとんでもないことを言い出した。
「え、何言ってんの香川」
「マジか……俺はそうは思えねぇわ」
「どうしてそう思うの?」
東雲くんが香川くんに真摯に問いかけた。
「……僕には勉強しかないって思って、学校でもずっと勉強ばかりしてきたけど……それから開放されるならいいかもって」
飯田さんが椅子から落ちかけた。
「え……あたしずっと香川は勉強が好きなんだと思ってた」
「俺も……酔狂な奴だなって思ってた」
沙川くんがあ然としてる。
「私は……香川くんの言うこと、ちょっと分かる気がするな」
私は気がついたらそう言っていた。
「私も、学校じゃ人の気持ちばかり推し量って、ちょっとしんどかったから……ここに来て、それをすべき人の数が減って、楽」
すると飯田さんは私の頭をそっと撫でた。
「そんなことあんまりしなくていいと思うよ〜、さなちん。だって普段空気読みすぎでしょ。もっと気楽にして〜」
「あ、ありがとう……」
飯田さん、そういうふうに私を見てくれてたんだ。元の世界にいたままじゃ、知れなかったことかもしれない。
「じゃ、この世界は二人が休憩できるところってわけだな。ならちょっとは我慢できるわ」
沙川くんが真面目な顔をして言う。
「とはいえ、帰らないと、向こうの世界で俺たちの不在がどう影響してるか分からないし、これからこの世界がどうなるかも不確定だからな」
東雲の言うことに、みんな頷いた。
「帰ろう、みんなで」
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