第2話 side飯田

 私の見方で言うと、東雲はけっこうかっこいいと思う。好きとかじゃないけど。でも優等生って感じで、嫌々っぽいけどどっか行こって言ったらついてきてくれるし、優しい奴なんじゃないかなって。とか思ってたら沙川が横に座ってきた。

「どしたの〜まみちゃん。遠くをうっとり眺めちゃってさぁ」

「うううっとり!?!」

 おい沙川。冗談も休みやすみ言いなよ!

「そんなんじゃないし!なんなの沙川、ヒマなの!?」

「つれね〜な、まみちゃんと喋ろっかな〜と思って。何、恋しちゃってるわけ?」

「う、うぜ〜、してないし!」

「ほんと〜?」

 沙川はカラカラと笑いながら缶ビールを飲んだ。

「おい、未成年は飲酒禁止だぞ?」

「俺らしかいねーうちに堂々と飲んじゃおうと思って」

 沙川は、当然のように元の世界に帰れると思ってる。でも私は、無人の自分の家で寝泊まりするうちにじわじわと「もうこのまま帰れないんじゃないか」という不安を感じ始めていた。

「沙川はいいよね、お気楽で」

「ん?なんか言ったか」

 アホ面が憎たらしい。

「なんにも。ちゃんとお金払ってるの?」

「最初に決めたとおり、レジにお金置いてきてるぜ」

 こうなった初日に、東雲を中心としていくつかのルールを作った。そうでもしないと無法になってしまうとみんなが危うんだからだ。一つ、商品のお金は払うこと。二つ、寝起きは自分の家で、朝にはかならず学校に集まること。三つ、法律は守ること。四つ、また帰れた時に送れないよう、勉強は予習しておくこと。勉強会と銘打って空き教室にみんなで集まって、勉強することもあった。東雲と香川くんは成績がいいから、かなり分かりやすく教えてくれる。ま、途中でトランプ大会とかに変わっちゃうんだけど。

「東雲〜、また勉強会やらない?」

 そう声をかけると、東雲は渋面を作った。

「お前らすぐ遊びだすじゃないか」

「そんなことないもん〜」

「そうだぞ!東雲、俺らをなんだと思ってるんだ!」

「アホ」

「婉曲表現どこいったぁぁ」

「え、ひどーい東雲、私は違うよね?」

「……」

 東雲にアホだと思われていることが判明した。こういうことにならなきゃ、認識すらされてなかったと思うとなんとなく嬉しいけど、アホか……。

「……でも飯田は食らいついてきてくれるから、伸びると思う」

「え、ほんと? 嬉しい」

 胸のうちがぽっと熱くなる。なんだ、私なんか変だぞ。まさか、マジで恋してる? 東雲に??

「うん。飯田は英語伸びそう。英語は相上さんのほうが得意だから相上さんに聞くといいよ」

 相上さんは「そんなことないよ〜」と謙遜してる。私はなんとなくもやもやした。東雲がさなちゃんに言及する時、いつも特別な尊敬の感がある。

 生まれた恋心を持て余しながら、私は二人の間の距離感を測った。

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