植物委員の漂流日記

はる

第1話 side東雲

「はぁ〜〜!?!? ありえないんですけど!」

 飯田がそう声を上げる。うるさい。

「まぁまぁ、これからどうしていくか考えましょうよ」

 香川が場を取りなすように言った。

「香川の言うとおりだな〜」

 沙川が寝そべりながら言う。

 俺たちが異界に来て3日。俺たちの忍耐は限界に来ていた。ましてや、俺たちは元々仲のいい友達というわけではなく、単に植物委員同士というだけだ。いつ離散してもおかしくない状況にあった。それがそうなっていないのは、俺が固まっていたほうがいいと意見を出したからだ。実際、この広大な無人の地球で一人行動をしたら、危険な目に合うかもしれないし、なにより孤独で死んでしまうかもしれない。これからどうなるか、誰一人として分かっていなかったし、集団でいることは、なけなしの安全を俺たちに与えていた。


 ことの始まりは、20××年の7月23日……。夏休み前の最後の委員会活動の時だった。俺は指定された花壇のところに行った。教師に指示されたとおり、1年生ばかり集まっている。人数は俺を含めて5人……。

 飯田真美。ギャルだ。成績は不良。休み時間は同じギャル仲間と廊下で馬鹿でかい声で話している。正直迷惑だ。

 相上佐奈。清楚系で大人しめの子だ。落ち着いていて優しげな雰囲気を醸している。喋ったことはない。

 沙川辰則。お調子ものでムードメーカー的立ち位置。植物委員には、仕事が少ないと聞いたから入ったと言っていた。

 そして香川靖。ガリ勉のオタクくん。悪い奴ではないと思う……というか、このメンツの中で一番まともなんじゃないかと思う。

 そして俺、東雲優太。

 とりとめのないことを話していると、突然地震が起こった。それからずっと、この世界にはこの5人以外の人間を認めていない。つまり、無人の地球へと俺たちはワープしてしまったのだ。

「ねぇお腹すいた〜〜」

 飯田が俺に言ってくる。知らねぇよ。

「コンビニ行く?」

「行く〜〜〜」

「他に一緒に行く人、いる?」

 俺が声をかけると、相上が小さく手を上げた。

「私も、行く……」

 3人で連れ立って歩く。飯田が俺をつついてきた。

「東雲は何買うの?」

「焼きそばパンかなぁ」

「昨日も食べてたじゃん! 好きなんだね〜。相上さんは?」

「私、は……クリームパンかな」

「へ〜菓子パン美味いよねぇ」

 3日目にして、飯田が思ったより常識人であることを知った。だからといってうるさいことには変わりないが。

「飯田って意外と空気読むよな」

「はぁ〜〜!? 東雲、私をなんだと思ってたわけぇ!?!?」

 ポコポコと叩かれる。

「いてて、やめろよ」

「も〜、東雲は思ったより冷たい奴だったぞ!」

「評価下がってるじゃん」

「それにたまにサイコパスっぽい」

「バレたか」

「えっっ怖いなにそれ」

 相上がぷっと口を抑えて笑った。

「二人とも、面白いね」

「あ〜! 相上さんが笑った〜!」

「ほんとだ、拝んどこうぜ」

「なむ〜」

「ちょっと、私はお地蔵様じゃないよ」

 恥ずかしそうにむくれた相上も可愛い。

 ここだけの話、この世界に来てよかったと少し思う。普段なら接点のない人と話すことができたから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る