エピローグ 真相
①
危うく男泣きをしてしまうところだった。僕は痛む足に気を配りながら、帰路についている。しかし、やっぱりあそこのデザートは絶品だな。パフェを頼んで正解だった、あの味を忘れぬうちにまた食べに行こう。
絆に呼び出された時は、ある程度の予想はしていたのだが、まさかあそこまで詰められるとは思わなかった。やはり、あの二人には隠せても、絆には無駄だったか。あの村に、あの三人が来たときは本当に驚いた、僕が行く先に誰かしらが来ることはあるが、三人揃ってはなかなかないので、相当に珍しい。だが、実際三人が来なければこの結果にならなかったのもまた事実なので、今となってはこれで良かったのだと思っている。
先ほどの最後の絆の言葉を思い出す。隠しごとをしないで、か。本当に難しい相談だ。絆はあの時気付いてそんなことを言ったとは思えないが、僕は確かにあの時嘘を吐いていた、ある事実を隠すために。
僕は、薬地政さんが上村志保ちゃんを保護した時、あのお堂で他の誰を逃がすためだと言って、勘違いでそうなったと言ったが、あそこで起きた事実は僕が吐いた嘘だ。薬地政さんはそういったことは今の今までしていない。なぜなら、あのお堂を使っての事は、先代の代で終わっているらしく、彼はあのお堂の秘密と代々寺が行っていたことだけを継承したに過ぎず、彼の代からは一切無かった。つまり、志保ちゃんの前の失踪が最後のあのお堂を使っての神隠しだったのだ。それ以降はあの山での失踪は何も起きていないことがそれを裏付けている。だから、勘違いで保護したということはないのだ。それに彼は、志保ちゃんが失踪した時あの村に行くことは出来なかった。なぜなら、彼は隣町の葬儀を行っていたのだから、あの当時起きていた連続事件の被害者たちの。それゆえ、彼はあの村で起きた失踪事件の事を知る事はなかった。
あの事件も犯人が逮捕され、事態が落ち着き、彼があの村に行ったのは失踪してから三か月後のことであった。そうこれこそが、彼が本当の事を言えなった理由の一つであり、僕が絆に隠している事である。
当時の彼は、例の連続事件が終わり被害者たちの葬儀の諸々も終わり、落ち着いた頃だった。ふと、本当にこれといったきっかけがあったわけでもなく、ただなんとなくあのお堂の事が気になったそうだ。普段ならば特段きにすることではないのだが、何故だか妙に気になり彼はあのお堂に行ったそうだ。そして、彼はあのお堂の隠し部屋で志保ちゃんを発見したそうだ。志保ちゃんは特に怪我もなく、身に着けていた衣服も汚れはほとんどなかったらしい。そして、身元を証明するものが何もないので、一旦彼は自分のお寺に彼女を連れて行った。志保ちゃんは意識を取り戻しはしたが、自分の事を含め過去の記憶を失くしていたが、日常生活を送る分には問題はなかったそうだ。彼は少女が失踪した事件はなかったかと調べた。すると、あの村での失踪事件の記事を見つけた。
しかし、彼はその記事を見て驚愕したそうだ。三か月も失踪していたとは思えないほど衣服の汚れがないこと、怪我もさほどなかったそうだ。ならば、一体この三か月彼女はどこにいたのか。もしや、彼女は人攫いに遭い、そのつらい出来事を忘れたいがために記憶を失くしてしまったのだろうか。だが、それにしては奇妙な点があることが拭えない。
散々考えたが答えは出なかった。そして、彼はある一つの可能性があるのでないかと思い始めた。もしや、彼女は神隠しに遭っていたのではないのかと。
そこからは、絆に語った通りだ。彼が何故本当の事を言わずに隠し事にしたのかは、正直どれが本当かは僕には判らないが、彼が彼女を愛しているのは事実、神隠しに遭ったかもしれないという恐れから黙っていたのもまた事実。ただ言えるのは上村志保という人間はもうこの世界のどこにもいないのだということだけだ。
それにしても、まさか本当の神隠しの話を聞けるとは、思った以上の収穫だった。今回もいい不思議話が手に入った。うん、満足だ。
僕は先ほどの足の痛みなど忘れてしまうほどの高揚感で、胸がいっぱいである、また不思議話を蒐集しなくては。僕の足取りは知らず知らずのうちに速足になっていた。
後日、僕の知らぬ間に計画されていた温泉旅行に連れて行かれたのだが、何故か僕が旅費を負担することになった。抗議の声は絆の鶴の一声により亡き者にされたのであった。
かくすもの ー久能怜夜の怪奇譚ー 雲川空 @sora373
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