第5話 蜂蜜の味はみんな違う
//SE テレビから聞こえてくるニホンミツバチの羽音
「はいっ、ストップ!!」
//SE テレビにひざで近づく音
「見てここ!! これがニホンミツバチさんの女王蜂だよ。ほらっ、ちょっと他の蜂さんより大きいでしょ? ほらっ、もっとこっちに来て!!」 //強引に腕を引っ張る
「これは貴重な映像だぞ? 女王蜂は基本的には生まれてから死ぬまで巣の中で卵を産み続ける。巣から出るのは基本的には一生で一回。
「ん? こ~~ら!! あたしの顔ばっか見てないでもっと画面をよく見なさいぃ!!」
「え? 何でこんな山奥で1人で養蜂場をやってるのかって?」
「……ニホンミツバチさんがさぁ、好きなんだよね。あたし」
「そう。あたし大学の研究室で蜂の生態の研究しててさ。今の日本のハチミツの9割以上は外国産なんだ。残りの1割の国産の蜂蜜もセイヨウミツバチを使った養蜂場の蜂蜜。だからニホンミツバチさんの作ったハチミツが市場に出回ることなんてめったにないんだ」
「だけど、日本に古来からいるのはニホンミツバチさん達なんだ。でも採れる蜂蜜の量がセイヨウミツバチよりも全然少ないから養蜂場ではほとんど飼育されてないけどね」
「まぁ、そんなわけであたしは大学を卒業してからは会社員してたんだけど、そんなニホンミツバチさん達の居場所を作りたくて25歳の時に退職して花屋をやりながら養蜂場を始めて今年で5年目なんだ」
「なんで30歳になるんだ!! あたしはまだ28歳だ。……年がバレたな…………。ま、まぁいい」
「なぁ。もしかしてあたしを若くして旦那に先立たれた未亡人かなにかと勘違いしてるんじゃないか?」
「違うんですかって……違うわ!!」
「山奥で若い女がいたら未亡人だと決まっているって? もうっ、変な本の読みすぎなんじゃないの!? あたしは結婚したことなんてありません~~!! ……って、まぁ威張ることじゃないけど……」
「まぁ、結婚もできるか分かんないしさぁ……」
「………………はぁ」 //深いため息
「ねぇ、ちょっと聞いてくれる!? この前街の婚活パーティーっていうのに参加したの!!」
「でね! 蜂のオスの
「………………」 //不満そうな表情で机に頬杖をつきながら
「まぁ、別にいいんだけどさぁ……。あの男は理解力が無かったんだよね、きっと……。蜂にも興味なさそうだったし。あたしは一生女王蜂に仕える働き蜂さ」
「そうそう!!
「ん? どうした??」
「………………」 //心配そうな表情で
「……そっか。仕事であんまり褒めてもらえなくて落ち込んでたんだね。まぁ、まだ入社したばっかりなんだしそんなに気を落とすことないぞ? お姉さんなんて会社員やってた時しょっちゅう怒られてたんだから」
「もう。しょうがないなぁ・・」
//SE 立ち上がり移動する音
//SE ビンをテーブルに置く音
「ほらっ、この蜂蜜食べてごらん」
「今度はこっちの食べてごらん」
「ねっ。ちょっと味が違うっしょ? これはニホンミツバチさん達がとってくる蜂蜜の元になる花の蜜や花粉の種類が違うから。まったく同じ蜂蜜なんてないんだよ?」
「蜂蜜の味がみんな違うようにキミにしかできない仕事があるはずだぞ?」
「それに辞めちゃったらここにも来られなくなるじゃないか。お姉さん困っちゃうよ?」
「だからもうちょっとお仕事頑張ろうね。……そうだ! 何か趣味はないのか? その趣味をお仕事終わりの楽しみにしたらいいじゃあないかぁ!!」
「ASMR? 何だ、それ?」
「……ふ~~ん。声や音声が収録されているものなのかぁ。なるほどなぁ。キミとは年はまぁまぁ近いけどお姉さんしらないや。ジェネレーションギャップを感じるよ……。あっ、そうだ!! いいものあるよ」
//SE 何かを探す音
「ほら、これ♪」
「このCDにはあたしの養蜂場のニホンミツバチさん達の羽音が収録されてるぞ♪ この羽音を聞いて普段の仕事の疲れを癒すといい♪」
「あとは…………んしょ」
//SE 何かを探す音
「これも渡しておこう」
「これはあたしの声で養蜂場の説明を吹き込んだCDだ。あっ、そっちは養蜂場の仕事の様子を撮影したDVDね。DVDの方はじいちゃんに頼んであたしの仕事を撮ってもらったから結構ぶれてるけど勉強用に見てくれ」
「え? ASMRは勉強のために聞くんじゃないって? いいじゃん、ニホンミツバチさんの羽音を聞きながらあたしの養蜂場の説明を聞いて寝れば! 知識もついて一石二鳥だよ?」
「そうそう♪ 来週また来るまでの間にちゃんと毎日聞くんだぞ? お姉さんちゃんと覚えてるか来週キミが来た時にテストしちゃうからな?」
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