第26話 一回引くのに、500円です💰
王は図形をよく見ようと、腰を上げて座卓の反対側に回り込んだ。
ランスロットとエクトルも、首を伸ばして布を眺める。
布幅いっぱいに描かれた真円の中に、縦線・横線・斜め線を組み合わせた文字が三列に並んでいる。
「ランスロット、読めますね?」
ヴィヴィアンは、眼鏡を上に引き上げて訊ねた。
「はい……」
ランスロットは前屈みの姿勢で、かつての記憶を引き出す。
湖底の城館で育てられた彼は、養母のヴィヴィアンから古代文字を教わっていた。
「我、女神のしもべは願う。アーサー王を亡き者にせよ……と、記されています」
ランスロットは肩をすくめ、気の毒そうに王を見た。
同情の眼差しに、王は深く吐息する。
こんな文言を記すのは、異父姉モーガン以外に在り得ない。
つくづく、嫌われたものである。
「……湖の奥方よ、モーガンを倒すより方法はないのか?」
「倒すのは不可能かと」
ヴィヴィアンは考え込む。
「妖精の私でも、人の魂を滅したり封じたりする能力は持ち合わせておりません。今のモーガンの肉体を滅しても、いずれ転生するでしょう」
「我らは、何度も転生を繰り返しているのか?」
「そうです。ただし……今回は、陛下とモーガンが鉢合わせしました」
「つまり、転生の度に巡り会っている訳ではありません」
マーリンが、後を引き継いで説明する。
「我らを含め、王を敬愛した円卓の騎士たちは、一種の転生グループなのです。同じタイミングで転生し、友人や仲間として過ごし、平穏に生涯を終えます。しかし、稀にモーガンの転生サイクルとぶつかるのです。その場合は、
「では、我らは知らず知らずのうちに、巡り会いを繰り返していたのですか」
エクトルは感激したように、かつての兄を見た。
尊敬する兄と常に一緒、の事実が嬉しくて堪らないらしい。
まるで主人を追いかける仔犬のようだ、と王は思った。
自分を追いかけて来る異父姉とは大違いである。
まあ、自分の父が撒いた種だから仕方ない。
彼らを一族内のいざこざに巻き込み、申し訳ないとさえ思う。
「敵は……叔母上だけですか?」
ガウェインは頭を下に向け、ささやいた。
王も、ランスロットも、エクトルも沈黙する。
遥かな過去の記憶は懐かしく――残酷でもあった。
ランスロットとギネヴィア王妃の不義が明るみとなり、王は妻に死刑を宣告せざるを得なかった。
処刑場に連行される王妃を救出したランスロットたちは籠城したが、ローマ教皇の仲介で停戦。
ランスロットたちは故国の小ブリタニー(フランス)に帰還した。
しかし、王妃救出時の乱戦で弟二人を失ったガウェインは、ランスロットを許さなかった。
その頃の王には、ガウェインの復讐心を収める気力は無かった。
偉大な王であれ、忍び寄った老いには勝てない。
ガウェインの進言に従い、甥のモルドレッドに国を預け、小ブリタニーに進軍。
しかし、モルドレッドはアーサー王が戦死したとの虚偽を流布し、勝手に戴冠して王座を奪い、ギネヴィアとの結婚まで画策した。
王はモルドレッド討伐のために引き返し、ドーバーで戦線が開かれた。
ガウェインは古傷が元で戦死し、アーサー王もモルドレッドと相討ちとなった。
――全ては、苦い思い出である。
そして、今のガウェインの言葉は、重大な意味を持つ。
『敵は、叔母上だけですか?』
全員が、同じ不安を抱いた。
別の敵がいるのではないか、と。
「とにかく、今後もモーガン・ル・フェイの動向を追います」
ヴィヴィアンは、一同の気を奮い立たせる。
「私は、この呪符を詳しく分析しますので。それとですね……武器を調達します」
「武器ですと?」
ガウェインは訊き返し、ヴィヴィアンはスマホ画面を見ながら説明する。
「はい。ベースとなる物があれば、武器に生成可能です。これです」
ヴィヴィアンはスマホ画面をかざす。
ある企業のホームぺージで、商品情報が載っている。
『ガチャってポン・発売情報! 伝説の武器シリーズ第二弾。アーサー王』
「これは……」
王は畳を降りて画面に見入り、マーリンも自分のスマホを操作し、ガウェインに見せる。
画面をスクロールすると、シリーズのラインナップが表示された。
『1)エクスカリバー』
『2)セクエンス』
『3)ガラチン』
『4)石に刺さった剣』
『5)ロンドミニアド』
『6)クレシューズ』
「『1』『4』は王陛下の剣。『5』は王陛下の槍。『3』はガウェイン卿の剣です。『2』はランスロット卿の剣で、『6』はバン王陛下の剣です。皆さま、自腹で自分の武器を引き当ててください」
ヴィヴィアンは、笑顔で一同を見渡した。
――続く。
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