第20話 カラスは犬よりも人に慣れやすいとか
「さて、今日は映画『オオカミ執事と紅薔薇お嬢さま』の特集です! ケイ・クータ先生原作の漫画のアニメ映画で、テレビでもセカンドシーズンまで放送されました。広報の江端さんに紹介して頂きましょう! それに、映画を観たファンの方も来てくれました!」
女性キャスターが制作会社の女性広報を紹介し、広報は台本通りに喋り始める。
番宣後半のコーナー『映画グッズ紹介』を削り、『ファンに映画の感想を聞く』に変更したのだ。
ゆえに王とガウェインは引っ込み、
唱和するのは、王でも
三人で手を取り、『ログレス王国に栄光あれ』と唱和すればイベントクリアだ。
しかし、
ピンクのボンネットを被った姿で、アクスタを手にしてインタビューに答えなければならない。
クラスメイトに観られたら、と思うと冷や汗が止まらない。
顔バレを避けたい一心から、メガネを外した。
もちろん、虚しい努力であることは判っているが。
三人の向かい正面では、テレビ局のタイムキーパーが、中継時間をジェスチャーやパネルで示している。
その少し後ろでは、ヴィヴィアンも同様のことをしている。
左手にマジックで『あと』と書き、右手の指で時間を示す。
どうやら、横に居る
ヴィヴィアンの指の本数は裸眼ではボヤけて見えないが、
それよりも、頭上を旋回する八羽のカラスが問題だ。
メリーゴーラウンドの馬のように、美しい円を描いて飛んでいる。
操られているにも程がある。
その上、たまに白い液体を降らしてくる。
三人の周囲は、白線状の円が出来つつある。
そして――キャスターが、マイクを構えて
「では、映画を御覧になったファンの方に感想を伺ってみましょう! 皆さん、高校生ですか?」
「はいっ……僕らは、同じ高校に通ってますっ」
「真ん中の方は、ヒロインのフルール嬢のファンでしょうか?」
「はい……あの、ドレスがとても可愛いし、変身シーンが好きです」
「こちらの方は、執事のジャケットが似合ってますよ!」
「フッフゥ~。レディーにそう言われるとは、着た甲斐がありましたァ~」
「そちらのボンネットを被った彼、グッズは買ったかな~?」
キャスターに代わって芸人が訪ねた。
「アクスタを買いましたっ」
――知り合いが観ていませんように。
――知り合いが観ていませんように。
せめて、バスタオルアクスタは最低限の露出にしたい……。
【 あと 三分】
ヴィヴィアンが両手で指示した。
あと二分で生中継が終了し、その一分後に三人で唱和せねばならない。
頭上のカラスたちは円形飛行を止め、その場で羽ばたきを繰り返している。
その一羽が頭上を掠めた。
ボンネットを爪で掴み、しかし「クエッ」と鳴いて直ぐに逃げる。
傍の芸人が不思議そうに
どうやら、芸人にもカラスの声が聞こえたらしい。
胸の高さまで降りて来ると、真っ黒い目で
(げえっ!)
これはさすがにマズイ。
頭への攻撃はボンネットで防げるが、それ以外の箇所は無防備である。
(待て待て待て! 生放送だぞ、何を考えてるんだ!)
その頃――
マーリンは、呪符を発見していた。
十階建てのビルに垂れさがっている縦長の懸垂幕の下だ。
『英国紅茶展開催中!』の垂れ幕の三階の窓付近に、円と文字を組み合わせた図形が描かれた布製の呪符が貼られている。
(あれだ!)
マーリンは呪符を睨む。
大きさは学習ノートぐらいだろうか。
あれを落として回収するのがベストだ。
周りを見渡すと、二羽のカラスが路上をウロウロしている。
エサを求めているのだろう。
マーリンはビル一階のコンビニに駆け込み、ビスケットの小袋と水性マジックペンを購入して出て来た。
すべきことは、ひとつ。
人目など気にしていられない。
馴れた手つきで、舗装ブロックに水性ペンで円を描いた。
その中に、オガム文字でこう記す。
【 精霊の息子マーリンが願う 】
そして円陣の上に、ビスケットをばら撒く。
すると、たちまちカラスたちが寄って来た。
都会で生きるカラスたちは、人を恐れないのだろう。
二羽はビスケットを突く。
それぞれが一枚を食べ終えたのを見計らい、マーリンは叫んだ。
「行け! 我が願いのままに!」
立ち上がり、垂れ幕に向かってサッと右手をかざす。
つんつんつん。
つんつくつん。
二羽の涙ぐましい努力は続く。
――続く。
*********
アーサー王伝説豆知識(16)
この話の冒頭に出て来る架空の漫画家ケイ・クータ氏の元ネタは、アーサー王の義兄のケイ卿。
マロリー版『アーサー王の死』では国務長官と云う立場なのに、影が薄い。
ケイ卿の原型は、クレティアン・ド・トロワのアーサー王物語に登場する執事騎士の『クー』だろう。
大変な美貌の持ち主だが、毒舌家。
ペルスヴァルに鎖骨を折られたりと良いとこ無しです。
トロワ版には王の『義兄』記述が無いので、その設定はマロリーのオリジナルか?
しかしマロリー版では、その最期も描かれていない。
不憫な人である。
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