第17話 上から来るぞ、気を付けろ!

 古いレンガ倉庫を改装したオシャレなカフェ。

 紅茶が美味しいと評判のカフェ。


 そこに入った一行は、二人を除いて思い思いのメニューを注文した。

 アップルパイ、ベルギーワッフル、レアチーズケーキ、パンケーキ。

 ドリンクとのセットで、幾分お安くなるのはお約束だ。

 当然、全員が紅茶とのセットメニューを注文する。


 ヴィヴィアンと明生あさおのみがホットドッグとのセットメニューを注文した。

 このカフェのホットドッグは至ってシンプル。

 近くのパン屋さんから仕入れたコッペパンに、胡椒の効いたソーセージをサンド。

 ソースなどのトッピングは、二種類までは無料だ。


 ヴィヴィアンはトッピング無しで、明生あさおはマスタードソースとシナモンシュガーを仕方なくトッピングして貰った。

 

 しかし、ホットドッグへのシナモンシュガーのトッピングはメニュー表には無く、店員さんも当惑気味に「有料になりますが……」とのこと。

 

 ヴィヴィアンは平然と承諾し、それが明生あさおの前に運ばれてきた。



「シナモンとマスタードって合うの?」

「メイプルマスタードソースがあるから合うのかも」

「アメリカンドッグにグラニュー糖を掛ける地域もあるからねえ」


 愛理えり蘭澄かすみは興味深そうに、奥名は鼻で笑って、明生あさおの皿を眺める。

 三日月の如く美しく反り返った焼き立てソーセージの上には、ジグザグに絞り出された黄色いマスタードソースが輝く。

 その中央部には、山と盛られたシナモンシュガーが芳香を放っている。


 何でこんなに山盛りにするんだ、と明生あさおは憤慨したが後には引けない。

 ランスロットを覚醒させるのに必要な食べ物なのだ。

 水とストレート無糖紅茶で、何とか流し込めるだろう……。

 明生あさおは覚悟を決めて、ソーセージにナイフを入れる。

 ジュワッと溢れ出た肉汁が、シナモンシュガーをジョベッと黒く染めた――。




 ……四十分後、一行はカフェを後にした。

 アップルパイが気に入った奥名は追加注文し、彼が機嫌よく食べ終えた頃、明生あさおもホットドッグを完食する難行を乗り越えた。

 

 

 

 その後はボウリング場に繰り出し、百貨店の『春のスイーツフェア』でアイスなどを食し、札幌駅前に戻って来た。


 時間は午後四時を過ぎている。

 ランスロットを覚醒させるための唱和の時間まで、時間を潰さねばならない。


 が、良く見ると――例のドーム前に人だかりが出来ている。

 何やら、マイクで喋っている声も聞こえる。


「あれは……ちょっと見て来る」

「僕も行きます!」


 明生あさおとマーリンは近付き、人を掻き分けて前に出た。

 すると――



「こんばんはー! 今日は『どさんこアワー』のスペシャル番組をお送りしまーす! ゲストは、秩父別ちっぷべつ町出身で新婚のキジはるさんでーす!」


「うぃうぃ~、どぉも~!キジはるでーす! よろしくお願いしまっち~♪」

「今日は、チマタで話題になっているモノを紹介していきますよ~!」




「は!?」

 王はポカンと口を開けた。

 甲高い声で喋る男女の回りを、十人以上の部下らしき連中が囲んでいる。

 肩に鉄器を担いだ男もいる。

 

「彼らは何だ? 彼らの立っている付近で、唱和をするのでは無いのか?」

「平日は、この場所でワイドショーを生中継しているのですが」


 さすがのマーリンも動揺し、声が上擦っている。

「祝日も生中継しているとは、迂闊でした。番組表を調べて……」


 ――と、彼は言葉を切って空を見上げた。

「……おかしい。見えないけれど、空に何か居ます! 妹さんとランスロットを屋根のある所に避難させましょう!」


「承知した!」

 危機を察した王は人混みを抜け、ランスロットたちの所に向かう。

 その背後から、何かが接近する。

 戦の手練れである王は気配を読み、サッと首をすくめた。

 頭皮には当たらなかったが、尖った何かが髪を掠めて去る。


「何だ!?」


「カラスの攻撃ですっ!」

 いつもは冷静なヴィヴィアンが、顔を引き攣らせて走って来た。

「魔法で見えませんが、陛下の頭上に八羽のカラスが居ます! 逃げて下さい!」




  ――続く。



*********


アーサー王伝説豆知識(14)


ちくま文庫版マロリー卿作の『アーサー王の死』では、ランスロットの冒険の話が多く収録されています。


 その中の珍エピソードが、「女性狩人の射た矢が、森の泉のほとりで寝ていたランスロットの尻の真ん中に刺さった」話です。

 ランスロットは滞在していた隠者の家に戻り、隠者は苦労して矢を抜いた、とか。


 これの原作、と言うか原典はフランス人作家の書いた『アーサー王物語群』の中にあるのでしょうか?

 マロリー卿は、フランスの『アーサー王物語群』をまとめ上げた人ですから、原典に在っても不思議では無いです。

 

 エロスとユーモアのあるエピソードですが、BLの暗喩だと指摘した文章を読んだ記憶があります。

 その文章を探したい……。

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