第16話 転生したらセレブなお嬢さまだったのです

 晴天の四月下旬である。

 うら若き一行は、順調にスケジュールをこなしていく。



 ◇ ◇


 ×王陛下、マーリン、ガウェイン、私、ランスロットの五人で札幌駅前のドームで待ち合わせをする。


×近くのシネコンで、アニメ『オオカミ執事と紅薔薇お嬢さま』を鑑賞。


×鑑賞後、王陛下は『紅薔薇お嬢さま』のアクスタ三種類を購入。


×王陛下は、その場でアクスタを持って記念撮影。


×お昼ごはんは、百貨店八階のお蕎麦屋さんで。


×王陛下は『天ざる』、マーリンは『カレー南蛮』、ガウェインは『天丼』、私は『うな重』を食べる。ランスロットは自由。


・時計台を見学後、近くのカフェで私と王陛下はホットドッグを食べる。他の人は自由に注文可。


・午後四時三十分。駅のドーム前に立つ。


・王陛下はガウェイン・ランスロットと手を繋ぎ、「ログレス王国に栄光あれ!」と唱和する。


 ◇ ◇



 ×印の箇所までは、何のトラブルも発生せずに終了した。

 『紅薔薇お嬢さま』のアクスタがドレス・水着・バスタオルの三種類で、それらを持って笑顔で人前で撮影したとかは、些細なことだと思うことにした。




「うーむ……」

 王は腕を組み、『札幌時計台』を見上げる。

 こじんまりした建築だが、見物人も多く、中の資料館とやらも混雑している。


 奥名・蘭澄かすみ愛理えりはそこを見学中だが、王とマーリンとヴィヴィアンは早々に中を出て、今後の対応を検討している。


「今のガウェインは、己が誰なのかを自覚しているのか?」

「騒々しいので暗示をかけました」


 王の問いに、ヴィヴィアンは冷静に答える。

「あるワードを目にするか聞くかすると、ガウェイン本来の人格が出て来ますので御安心を。古水蘭澄かすみの正体を知って乱心して学校を休んだので、彼の自宅まで行かねばなりませんでした。運転手付きのリムジンがあるとは云え、無駄な手間でした」


「……君はどこに住んでいるんだ?」

「北区のマンションの二十五階で、メイドと暮らしています」


「御両親とは一緒じゃないのか?」

「父と母は、宮の森の三階建ての邸宅で暮らしております」


「どうして一緒に住まないんだね?」

「通学に不便ですので。陛下が通うであろうと予言した『緑黎坂りょくれいざか高校』は、札幌市外です。そこそこ賑わっていて、通学に適した地区を選択してマンションを購入して貰っただけです」


「……うーむ」

 また王は唸った。

 

 現在のヴィヴィアンの実家は、貴族並みの富裕層らしい。

 麦屋の食事代も、彼女が電子マネーとやらで全員分を支払った。

 共に『レディース蕎麦御膳』を注文した愛理えり蘭澄かすみは、目をを丸くしていたが。

 いや、自分――と言うか明生あさおの『天そば』でさえも千円越えだ。

 全員の食事代を合計すると一万円をハミ出たが。ヴィヴィアンは顔色も変えず。

「私の父は、経済を回せと言っているのです」と涼しい顔で答えた。




「それで……ここには敵の気配は無いのかね?」

 王はマーリンに訊ねたが、マーリンは首を振る。


「尾行はされていませんが、例の駅前のドーム付近が怪しいです。我らが、ドーム前でランスロットの覚醒を計っていることがバレています。攻撃されるとしたら、その時でしょう」


「しかし、武器は無いぞ」

「敵も、群衆の前で傘を振り回すような攻撃は不可能でしょう」


「では、そなたがモーガンなら、どうやって私を攻撃する?」

「何とも言えません。モーガンの魔力がどの程度なのか不明ですから」


 マーリンは少し考え込む。

「ただ私なら、先日のように教師を操るなどの愚行は犯しません。ニュース記事になるような攻撃は避けます。モーガンの余裕の無さの表れかも知れませんが」


「そうか……その場で対処するしかないと云う事か」

 頷くと、ちょうど愛理えりたちが中から出て来た。


「お兄ちゃん、先輩たちに絵葉書とポーチを買って貰ったよ!」

「そうか、良かったな」


 王は、兄らしく回答した。

 姉二人とは不仲だったし、初めて持つ『妹』に慕われるのは悪くない。

 普段は辛辣気味な愛理えりも、今日はご機嫌で一安心だ。



「では、少し休みましょう。徒歩五分の所に、紅茶の美味しいカフェがあります」

 ヴィヴィアンは、スマホの地図を指し示した。


 が、明生あさおは身震いする。

 シナモンシュガーをトッピングしたホットドッグを食べるのは、苦痛以外の何物でもない。




  ――続く。



*********


アーサー王伝説豆知識(13)


 財布の許す範囲でアーサー王関連の書籍を読みあさった私ですが、その中で唯一断念したのが「アーサー王宮廷のヤンキー」です。

 

 手にしたのは高校生の頃かな?

 マーク・トウェイン原作のタイムスリップものですが、邦訳のせいか非常に読み辛かった!

 立ち読み数ページで挫折しました。

 

 調べたら複数の出版社から発売していて、抄訳版もあるようなので、再チャレンジしたくなって来ました。

 

 ただ、どうしても「ヤンキー」と言う言葉が受け付けません。

 良い邦訳語を求む!

 現代風タイトルなら「タイムスリップしたらアーサー王宮廷にいました」となるんでしょうけど。

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