第13話 王は思った。『ガウェラン』とは何ぞや?と。

 昼休み――。

 王は、三名の男子生徒と一緒に弁当を食した。

 山田・佐藤・田中と言う名で、『大野明生あさお』と気の合う学友らしい。

 

 彼らには、昨日の昼休みに姿を消したことを追及された。

 上手い言い訳が思い付かず、「古水蘭澄かすみに告ってゴメンナサイされた」と話したら、「明日の昼休みは、ちくわパンをおごってやるぞ!」と慰められた。


 ……芳しくない結果を招いたようだが、止むを得ない。

 後のことは、自分の転生者の『大野明生あさお』に託そう。

 他者に不利益を与えた訳でもないから、多少の恥辱は良しとする。




 食後は、また屋上に向かった。

 昨日のように、マーリン、ヴィヴィアン、そしてガウェインが待っていた。

 軽薄な奥名おきなでなく、甥の人格が出ていると悟った王は胸を撫で下ろす。



「よく来てくれた。感謝する」

 王は三人をねぎらう。

 他の生徒の手前、目立つ所作は禁物だが、ガウェインとマーリンは会釈した。

 もともと臣下ではないヴィヴィアンは、取り澄ました顔で突っ立っているが。



「早くも『現代』に慣れてきたようですね。アーサー王、さすがです」

 マーリンは笑顔で賞賛する。

「言葉使いも、この世界の住人に近付きました」


「うむ。一晩眠ったら、この世界の知識を習得していたのだ」


「大野明生あさおの知識を得たのです。僕たちもそうでした。ただし、逆は無いので注意して下さい。ベースとなっている脳みそは大野明生あさおのモノなので、王の過去世の知識を彼が得るのは困難です」


 

 すると、ガウェインは自分を指した。

「起床後に、叔父上や私に関する伝記を少し調べました。創作部分が多いですが」


「我々のことが歴史書に書かれているのか!」

 王は唸る。

 千年以上を経て、自分たちの名が伝わっているとは感慨深い。

 

 だが、ガウェインは目を逸らし――不審に思った王は訊ねた。

「よもや、悪しざまに書かれているのでは無かろうな?」

 

「陛下。読むのなら、15世紀のマロリー卿が記した物語を推奨します。また、スマホ等で『ガウェラン』と検索してはなりません」


 ヴィヴィアンの冷静なフォローに、ガウェインは目を丸くして突っ込む。

「『ガウェラン』を知っているのですか!?」

「知識の一環です。深く考えないように」



「……それより、ガウェイン。事情は理解したな?」

 不穏な気配を察した王は話題を変え、ガウェインも身を正して理路整然と話す。


「はい。私と湖の奥方ヴィヴィアンは同じクラスですし、彼女から大方の話は聞きました。叔父上を逆恨みする叔母モーガンは、叔父上の魂を消滅させようとしているのですね?」

 

 昨日の戦いでは興奮気味だったガウェインだったが、今日は落ち着いている。

 これは心強いが、しかし……


 

 王は空いていた木製のベンチに座り、再考する。

 ランスロットの覚醒の件である。

 

 ガウェインの言葉通り、始まりは親族間のトラブルである。

 父ウーゼルはティンタジェル公爵を殺し、その妻と婚礼を上げ、自分が産まれた。

 結果、公爵の娘のモルゴースとモーガンの恨みを買ってしまった。

 

 ランスロットは、このゴタゴタには無関係なのだ。

 非力な古水蘭澄ランスロットを覚醒させるのは正しいのだろうか。

 そもそも、『大野明生あさお』がスマホに彼女の写真を入れていたのは……




「ランスロットも覚醒させましょう。彼は頭が良い」

 王の迷いを知らぬ気に、マーリンは助言した。

 途端に、ガウェインの顔が太陽のように輝く。


「ランスロットも転生しているのですか!」

 

 その屈託のない笑顔は、王を黙らせた。

 在りし過去――

 ガウェイン卿は死の間際、ランスロット卿に詫びの手紙を書いた。

 

 

 ――我らの確執は全て水に流そう。

 貴殿が、誤って弟たちを手に掛けたことは神の名において赦そう。

 だから、どうか王を助けて欲しい。

 王は、我が異父弟モルドレッドの裏切りで窮地に立たされている。

 かつての我らの友情に免じ、偉大なる王の下に貴殿が参上することを望む。




「ランスロット……」

 遠き日の友情をガウェインは懐かしむ。

「彼が居るのなら、仲間に加えましょう! 彼はどこに!?」


「湖水のランスロット卿なら、ここです。読んでみましょう」

 ヴィヴィアンは、ガウェインの眼前で生徒手帳を開いた。

 見開きページいっぱいに、筆ペンでデカデカとルビ付きで書かれている。


 『古水こすい 蘭澄ランス』と。



 

「ぐごがぎゃばあぁあああ!」


 ガウェイン――ではなく、奥名太陽たかあきらの絶叫が響いた。

 四月下旬の真昼の陽射しは眩しかった。


 

 ――続く。

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