3章 ランスロットを仲間にしよう!

第12話 『悪い予感は、たいてい当たる』の法則

 

「本日の札幌市の地区別の天気です。中央区は――」


 王は音声を聞き流しつつ、焼き魚を口に運ぶ。

 魚のニオイに惹かれた飼い猫の『チャロ』が足に擦り寄る。

 

 昨日と同じく平穏な朝を迎えた。

 王は朝食を摂りつつ、自分の置かれた状況を整理する。


 朝食を作ったのは、この世界に於ける自分の『母』。

 水曜・金曜・土曜日は、『スーパー』なる場所で働いている。

 『父』は遠方の街で働いており、滅多に帰宅しない。

 『妹』は『中学校』なる教育施設に通っている。


 そう、自分の通う『高校』も教育施設だと学んだ。

 

 

 父ウーゼル王の時代、ローマ帝国はブリタニアから撤退した。

 

 父ウーゼル王亡き後、赤子の自分は命を狙われる危険があった。

 ゆえにマーリンの提案で、忠臣エクトル卿に預けられ、臣下の子として育った。

 けれど、エクトル卿はローマ風の教育も忘れなかった。

 読み書き・算術・歴史・修辞学(弁論・演説法)などを学僧から学んだ。

 楽しくはなかったが、養父には心より感謝している。

 それらは、将来の『王』には必要な学問であったからだ。



「だが……」

 王は、海藻入りの味噌汁をすする。

 王としての権威は、この時代では無意味である。

 ブリタニアの円卓騎士団は、遠い過去の伝説なのだ。

 

 この異国では、自分は一介の学生に過ぎない。

 それだけなら何の問題もないが、命を狙われている。

 

 マーリンもヴィヴィアンも魔力の大半を失っているのに、宿敵の異父姉モーガン・ル・フェイはそうでは無いらしい。

 早くも、刺客を送り込んで来た。

 刺客は魔法で操られた人間であり、無闇に傷付けられないのが悩ましいところだ。

 





「……今日も浮かない顔だね」

 高校前でスクールバスを下車した時、古水蘭澄かすみは訊ねた。

 明生あさおは曖昧に返答する。

「……ちょっと疲れてるんだ」


「また徹夜でゲーム? ちゃんと寝ようよ」

「……そうだね」


 今朝の彼女の顔色は悪くない。

 早退して寝ていたらしいが――どうしたものかと悩む。


 彼女が『ランスロット』だとして、覚醒させるか否か。

 運動能力が低い彼女は戦力としては頼りないが……



「やあ、古水さん。今朝も会えたね」

 

 後ろから『ガウェイン』こと、奥名太陽たかあきらが声を掛けて来た。

「今日も天気が良くて、気分は爽快。爽々海上保険だよ……あっ」


 明生あさおの姿に、彼はサッと両脇を締めて会釈した。

「大野くんも元気そうで、何よりです」


「……先輩、おはようございます」

 明生あさおも神妙な顔で挨拶をした。

 事情を知らない古水蘭澄かすみは、不思議そうに二人を眺める。

 昨日の朝と違う奥名太陽の態度が理解できない様子だ。


 だが奥名太陽は、またも態度を一変させた。

「今朝も一年一組まで送っちゃうよ。昨日は貧血を起こしたんだってね。さあ、重いバッグをボクに預けたまえ」


 ――呆れる明生あさおを一瞥し、前に出て並んで歩く。

 その時に見た奥名の目は、こう語っていた。

 古水さんの写真・写真・写真――と。

 

 

 どうやら、自分たちはコロコロと人格が入れ替わるらしい。

 自分に挨拶をしたのはガウェインの人格だが、すぐに奥名本人に入れ替わったようだ。

 王の人格が出た時は、明生あさおの人格は――視聴中のドラマのキャラを眺めている感じに近い。

 

 自分の中に潜むアーサー王の人格も戸惑っているようだが、互いに意思疎通が出来ない。

 王の突飛な行動に「やめろ」とか「こうしろ」とか指示するのは不可能だ。

 観客のように、黙って観ているだけだ。


 

(……とにかく)

 明生あさおは決意した。

(奥名先輩には、古水さんの正体を教えた方が良い。彼女が操られないとも限らないからな。自衛策を考えておこう)



 だが、得てして杞憂は現実となる。

 物語とは、そういうものである。



 

 ――続く。



*********


アーサー王伝説豆知識(10)


 円卓騎士は、何人いたのでしょうか?

 円卓は、キャメロット城の大広間に在った円形テーブルで、選りすぐりの騎士が着席を許されました。

 人数は、十三人・二十五人・数百人と著者によってマチマチです。

 

 ウィンチェスター城の壁に掛かっている円卓(二十五席)の直径は五メートルを超えるそうで、こうなると向かい合う正面の騎士と話すのも大変そうです。

 

 五十席ぐらいだと、円卓中央部分をくり抜いてドーナツ型にしないとスペースの無駄でしょう。

 椅子だけを円形に並べて座った方がマシに思えます。


 その円卓騎士の中で、両輪となって王を支えたのがランスロットとガウェイン。

 二人は終盤では袂を分かちますが、最期の一連の和解シーンは物語の最も美しい部分だと思います。

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