第9話 だから、ガウェインは『女好き』なんだってば
大野
勝利を確信した彼は、高らかに言い放った。
「先輩、琴里ヶ北中学校の女子制服を知っていますか? セーラー衿の白ブレザーに紺色のスカートです。衿のリボンは、
「うんうんうん!」
「中学一年生の文化祭では、彼女のクラスの企画は『アリババと四十人の盗賊』の舞台劇でした。彼女は、ナビゲーター役でした。アラビア風ドレスで、ひとりで舞台に立ってナレーションしたんです。赤いベールを被って、すごく可愛かった! 見たいでしょ、先輩!」
「わんわんわん!」
「写真を見たければ、指輪を嵌めさせて下さい! そして一緒に唱和しましょう!」
「ボクに指輪を! ぜひぜひ唱和させてぐれえええええっ!」
屈服したガウェインは、
「大野くん、ボクが間違っていた! 今までの非礼を許してくれっ! そして、君の秘蔵写真を見せてくれえっ!」
「先輩、こちらこそお願いしますっ」
ポケットから小箱を出し、指輪を出し、ガウェインの左手を取った。
ハァハァと息を吐く彼の左手薬指に指輪を当て……
「あれ?」
「……指輪がハマらないよ?」
「サイズが合わないんじゃ?」
ガウェインも指先を覗き込む。
第一関節まではイケるが、その先は無理そうだ。
「ええい!」
「いててててっ!」
無理やり押し込もうとする
「おいおい、根元までネジ込まなきゃ駄目なのか?」
「……それもそうでした」
指の根元まで嵌めなさい、と指示されてはいない。
第一関節まで嵌まったのだから、これでOKとしよう。
「では、一緒に唱えて下さい。『ログレス王国に栄光あれ』と」
「『ログレス王国に栄光あれ』だな」
「はい。『せ~の』で行きますよ」
「『せ~の』だな」
「はい。では『せ~の』…」
「君たち、何をしてるんだ?」
ガラガラと引き戸が開き、ジャージ姿の若い男性教師が入って来た。
サッカー部の顧問の
「あ、先生」
ガウェインは慌てて手を引っ込めた。
先生は、部室内の壁時計を眺めて言う。
「
「あ、はい。では、続きは外で」
ガウェインはスクールバッグとトートを抱え、
「君たち、傘は? 雨が降りそうだよ」
先生は、ドア近くの傘立てに差してあった黒い長傘を取る。
取って……それを真上から振り下ろした。
ばしゅっ!
空気が唸り、二人の間に傘の先端が叩き付けられる。
部室のカーテンが、手も触れていないのに閉じられた。
「何らって???」
目を丸くするガウェインは右往左往する。
先生はドアの前に立ち塞がり、湯気の立つ豚丼を見つめるように舌なめずりをしている。
「これは!……敵だ!」
王は察した。
早くも、敵の攻撃に見舞われたのである。
――続く。
*********
アーサー王伝説豆知識(7)
『アーサー王伝説』に於けるガウェイン卿の『女好き』設定。
これは、クレチアン・ド・トロワの『聖杯の物語』のせいと思われます。
この作品の主人公は「ペルスヴァル(パーシヴァル)」ですが、同時に「ゴーヴァン(ガウェイン)卿」の冒険をも描いています。
ゴーヴァン卿は、ある城主の娘『小袖姫』の代理騎士として決闘で勝ち、「そなたを決して忘れることは無い」と別れた後に、別の姫を口説いてイチャコラします。
これらのエピソードから、『女好き』のレッテルが貼られたようです。
この『聖杯の物語』は妙にエロス描写があって、無知な少年ペルスヴァルは旅の道中で出会った乙女に無理矢理キスをします。
彼は後に円卓騎士ゴルヌマンに出会い、騎士教育を受けて騎士に叙任されます。
ゴルヌマンは、トロワ版のみのキャラでしょうか。
なお、上記の『小袖姫』は、文章を読む限りは十歳ぐらいに思える……。
ゴーヴァン卿が「この御年にしては、何と洗練されていることか(私の意訳)」と姫を褒めてるし。
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