第7話 部室でガウェイン卿を待ち伏せしてね(はぁと)
「そなた、本当に余の味方か?」
さすがの王も不信感を持たざるを得ない。
忠臣だったマーリンが、今は自分と距離を置いているように思える。
「ですから」
マーリンは書写用の紙束を開き、小声で言う。
「この世界では用心深く振る舞わなければなりません。あなたは王では無いし、僕は魔術師ではありません。ベタベタ引っ付いている訳にも行かないのです。この周囲に敵が居るかも知れないのですよ? そやつが覚醒して、周囲の生徒を巻き込む恐れもあります」
「ぬう」
王は唸った。
武装せぬ者を戦いに巻き込むのは不本意である。
戦で多くの城や街を占拠したが、無抵抗な市民に危害を加えたり、盗みを働いた自軍兵士には厳罰を科してきた。
王は黙り込み、マーリンを習って次の座学の準備を始めた。
だが、日没までにガウェインを覚醒させねばならない。
悶々と、奴隷監督官の話が終わるのを待つ。
――ようやく奴隷監督官から解放され、奴隷たちは自由行動を許された。
帰途に着く者、武術団や座学団の活動に励む者と様々だ。
だが、王は玄室の掃除をさせられた。
他の六人の奴隷たちと一緒に。
初めて奴隷らしい扱いを受けたが、ここで怒っても無駄と諦めて従った。
掃除が終わると待っていたマーリンと合流し、また
そこにはヴィヴィアンが居て、彼女が考えた計略を明かしてくれた。
「陛下。まず、本日の日没は午後六時十八分です。昔の刻で言えば、『晩課』の時間帯です。腕に嵌めている時計の針が――」
彼女は時計の針の位置を教えてくれる。
「時計の針がその数字の所に達する前に、ガウェイン卿に指輪を嵌めて唱和して下さい。ただし」
「ただし?」
「実は、もっと早くに事を終えねばならないのです」
「何だと?」
王は、大きく眉をひそめる。
「日没が期限と言ったのは、そなたらだぞ?」
「先ほど確認いたしました。ガウェイン卿が下校するのは、午後四時四十五分です。日没より、一時間半ほど早く帰宅するのです」
「はあ?」
「彼の住む家は、道沿いの北東方向にあります。午後四時五十分に学校前に到着する路線パスに乗らなくてはならないのです。それを逃すと、次のバスの到着は午後八時です。何としても、午後四時四十五分までに使命を果たして下さい」
王は顔色を変え、腕の時計を見る。
ヴィヴィアンの主張を完全には理解できないが、ガウェインが護送馬車に乗る前に計略を遂行せねばならないようだ。
だが――
「余にどうしろと言うのだ? ランスロットは、母親に連れられて去ったのだぞ?」
「こうして下さい」
ヴィヴィアンは、紙を差し出した。
そこには、こう記されていた。
◇◇◇
・サッカー部の部室で
・
・
・昼休みに、
・彼女が好きなのは君だった。
・僕は、彼女のことは諦める。
・だから、子供の頃に彼女から貰った指輪を君にあげる。
・欲しいよね、この指輪。
・あげるから、君の左手薬指に指輪を嵌めさせて欲しい。
・そして一緒に唱和して欲しい。
・「ログレス王国に栄光あれ!」と。
◇◇◇
「すみません。これぐらいしか思い付きませんでした」
ヴィヴィアンは微笑み、王に白い紙包みを渡した。
「万一、彼がバスに乗り遅れた場合は、これを渡して下さい。タクシー代です」
――続く。
*********
アーサー王伝説豆知識(5)
アーサー王が持つ剣『エクスカリバー』。
原典では『湖の妖精』が与えた物ですので、私は一話で『魔剣エクスカリバー』と表記しました。
『聖剣』と書より異教っぽいかと思ったので。
問題は、『石に刺さった剣』です。
原作『アーサー王の死(ちくま文庫版)』では、教会に出現した『石に刺さった剣』をアーサー少年が引き抜き、王となりました。
ところがこの剣は後に折れ、マーリンの案内で辿り着いた湖で『エクスカリバー』を授けられます。
映画か何かで、死に際のウーゼル王が自らの剣を石に刺し、それが『石に刺さった剣』だとする話もあったような?
この解釈だと、アーサーが『石に刺さった剣』を引き抜けたのも納得ですね。
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