第3話 ガウェインは太陽の下でチート能力を発揮する

「ぐぬぬぬぅっ」

 王は呻き、周囲を睨む。

 横に立つ『蘭澄かすみ』ことランスロットは、銀色の手すりに掴まり、押し黙って立っている。

 

(これは馬車なのか? 同じ服装の若者ばかりが詰め込まれているが)


 身動きできぬ状況に惑いつつ、ここに至った経緯を思い起こす。

 

 

 奇怪な箱エレベーターで降下して館を出ると、見たことも無い街並みが在った。

 道には石が敷き詰められ、木々はまばらだ。

 家畜は見当たらず、人に連れられた変な犬チワワ一匹を見たのみ。

 ハトやカラスは居るが、ガチョウやニワトリは居ない。


 天高くそびえる館もあれば、低い小屋もある。

 住民たちの姿は見るが、街を守る兵士は見当たらない。


 何より驚いたのは、鉄の箱(馬車?)が道を滑っていたことだ。

 如何なる魔法なのか、見当も付かない。


 そのうちに目の前に止まった鉄の箱に乗るように促され――この有り様である。


 

 それにしても、周囲の男どもがかんに障る。

 鉄の箱に数十名が詰め込まれているのに、ヘラヘラと笑っている。

 目の前に立つ娘に、椅子を譲ろうともしない。



「去年は学校の停留所で、二年生が足を轢かれたんだってよ」

「マジ? だっせー」

「そのせいで、センセが停留所に立つようになったのか」



 軽薄な笑い声が響く。

 だが、彼らもモーガン・ル・フェイの策略で売り飛ばされた奴隷と思われた。

 この奇妙な装束は、奴隷用に違いない。

 この奇妙な鉄の箱は、奴隷護送用なのだろう。

 ランスロットは魔法で変身させられ、抗う気力も無くしたようだ。



「余は戦うぞ! 余はログレス王国の君主アーサーである! 馬車を止めよ!」


 叫ぶと、周囲がパシッと沈黙し――ひと呼吸後には爆笑が渦巻いた。


「おい、今の誰だ?」

「異世界転生してきた奴がいるんじゃねえ?」

「やめれ、腹いてえ!」



 ――男どもの嘲笑に、王は歯噛みをする。

 邪悪な魔法のせいで、彼らは正気を失っているのだろうか。

 大声で反論すべく息を吸いこむと、ランスロットが耳元で呟いた。


「……大野くん、静かに乗ってよう」

「しかし」


「大野くん、ここは我慢して」

 

 ――制止する声が、斜め後ろから聞こえた。

 男の男だが、声の主を探すことが出来ない。

 箱から解放された後に探すことにしよう。

 言い聞かせ、王は揉み合いに耐える。




 何度も道を曲がり、ようやく奴隷護送箱から降ろされ、王は肩で息をした。

 他の奴隷たちも続々と降り、手前の城に入る。


 周囲を見渡すと畑が広がっており、他の家屋はまばらだ。

 三階建ての城の周りにも、草木が密集している。

 街から外れた場所で、野生馬も見当たらない。


 

 王は嘆息し、城を見上げる。

 立派な城だが、ここで強制労働をさせられるのだろう。

 止まった箱の前には、ふんぞり返った中年男が居る。

 この男が、奴隷監督官のようだ。

 武器は持っていないが、奴隷たちは逆らおうとしない。

 やはり、奴隷たちには服従魔法が掛けられているのだろう。




「やあ、古水こすいさん。おはよう。今朝も会えて嬉しいよ」

 長身男がニヤケながら近付いて来た。

「今日は天気が良いね。おかげサマで気分もアゲアゲ、アゲハチョウだよ」


奥名おきな先輩、おはようございます」

 ランスロットは丁重に頭を下げた。

「でも、今日は午後から雨だそうですよ。折り畳み傘を持って来ました」


 王は、ランスロットが白い棍棒を『スクールバッグ』に入れていたの思い出す。

 侍女に勧められ、自分も赤い棍棒を持たされたのだが……。



「そなた……誰だ?」

 王は目を細め、長身の奴隷に訊ねた。

 何となく既視感があるのだが――



「はははははは、冗談キツイなあ」

 長身男は、顎を突き出して笑った。


 長めの前髪を指先で整え、男は名乗る。

「僕は『奥名おきな 太陽たかあきら』くんだよ。二年生ながら、サッカー部のエースストライカー。忘れないでくれたまえ」


「いや。違う!」

 王は叫んだ。


 彼は、オークニーのガウェイン卿。

 オークニー王で、我が甥っ子だ。

 太陽神の加護を受け、陽射しの下では三倍の力を発揮した男だ。



  

  ――続く。


 

 *********


 アーサー王伝説豆知識(2)


 アーサー王の異父姉モルゴースとオークニーのロット王の長子が、ガウェイン。

 イギリス版の古い物語では『礼儀正しい騎士』とされていました。

 

 しかし、フランスのクレチアン・ド・トロワ作『ペルスヴァル』では「女性好き」設定が付加。

 

 後に書かれた決定版とも言えるマロリー作の『アーサー王の死』では「頑固さ」が追加されています。

 

 けれど、アーサー王や王妃への敬愛、ランスロットとの友情が熱く描かれた場面もあり、彼の「頑固さ」は一族への誇り故だと私は解釈しています。

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