第25話 執筆活動と販促活動。

「さて、本が作れるわけだがにゃ……売り方も問題になってくるんだにゃ!」


 と意気揚々にいうミーア。一度お開きになり、三人、アルフォート、ステア、ミーアの三人で魔道具の前に立って話をしている。


「先ずは一枚をタダで配る。これは誰でも作れる料理が前提にゃ」

「なんでタダで配るんじゃ?」


 ステアが疑問そうに言うと、ミーアが笑いながら、


「例えば、実際の料理でもサンプルという形で試食してもらった方がその味を求めて、後で買ってくれる人が増えるからにゃ」

「屋台で林檎を切って渡していた人もおったし、似たようなモノじゃな?

 アルフォートも食べ比べて買ってたのじゃ!」

「そうその通り!

 んで、その次に十二ページのレベル一編を二十金で売る。あんまり安すぎたりページ数が多いと、国王に技術革新を疑われるからにゃ……」


 この時点で王に翻意を持っていると言われても仕方ない領域に首を突っ込んだのではないかとアルフォートは気づく。勝手に魔族の四天王と懇意になり、そして最新技術を輸入したのだ。

 なるほど、こうやって相手を雁字搦めにするのかと勉強になった。確かにセバスチャンが警戒するのもいたしかたない。


「レベル二に属するのは十六ページで三十金、レベル三が二十四ページで五十金、とりあえずはこれだけ作れればいいかにゃ。

 とりあえず、簡単なレシピを書いて欲しいにゃ」

「一つの料理だと、紙のサイズに対して勿体なくないか?」

「んー、それもそうにゃ。簡単な冒険者向け二品ぐらい絵付で書けるかにゃ?」


 アルフォートが提案するとミーアが修正をかけてくれる。


「ゴブリンの耳スープ、ハウリングラッツの処理方法と食べ方をすらすらっと……」

「これじゃダメにゃ、アルフォートが省略している手順があるじゃにゃいか。初心者でも作れるように書かなきゃだめにゃ、やりなおしにゃ」


 無駄だとばかりに第一原稿を破られる。


「……冒険者だと最低限しか、文字を読める人も少ないから、絵を多めにした方が良いんじゃ?」

「それがいいにゃ!」


 と出来上がったのが第二原稿。

 一つ目は、ゴブリンの耳を刈り取って、塩で良く揉み、一つまみの唐辛子を入れて煮るという手順と結果を絵にしたモノだ。

 この時点で一回、ミーアに原稿を取られ、


「ステア、これ何をしてるかわかるにゃ?」


 そしてミーアはそれを暇していた、ステアに見せる。


「なになに……ゴブリンが耳を削って、塩で良く揉んで、一つまみの唐辛子? を入れて煮ると……ってこれは、我が最初にアルフォートに食べさせてもらったスープなのじゃ!」

「大丈夫みたいにゃ。ステアでも理解できるのにゃら問題ないにゃ」

「ステアでもって!」


 頬を膨らませる六歳児の様相を可愛いなぁと観ているアルフォート。


「ステア、確認ありがとう」


 とはいえ、フィアンセの機嫌は取らねばならぬと笑顔になったアルフォートが礼を言う。


「えへへ……なら、良いのじゃ。

 アルフォートの役に立てたのじゃな?」

「そうだよ。大健闘だよ!」

「えへへへへへへ」


 アルフォートに近寄るステアが頭を撫でて欲しそうにするので、求められたことをする彼。すると、赤いバラが咲いたような笑顔で微笑むステアだ。

 うん、やはりステアは可愛いなぁっと、アルフォートがデレ顔になる。


「ロリコン、残りの隙間に早く次のレシピを書くにゃ」

「ミーアさん、僕はロリコンじゃありませんよ!

 好きになったドラゴンが四百九十歳で年上ですし!」

「……今の姿を事情を知ってるセバスチャンあたりでも、見せたら引かれてたと思うにゃ、気を付けるにゃ」

「……ハイ」


 渋々、次はハウリングラッツの処理を丁寧に書き、焼く工程で終わらせる。


「これも美味しそうなのじゃ!」

「絵心があるということは素晴らしいにゃ」


 二人にそう褒められると、照れ臭くなってしまうアルフォートである。


「そうしたら印刷機を稼働……あ」

「どうしたの、ミーアさん?」

「発電するのに魔力起動キーが必要だったにゃ……流石にこれは門外不出だし、無理だし、人力でやるにしてもミーの魔力じゃ四枚も刷ったらからっけつにゃ」

「それって、僕だと一枚も刷れないことに……」


 と途方にくれそうになったところに、


「魔力なら、我に任せるのじゃ」


 と魔力の塊であるドラゴンのステアが名乗りを上げる。


「ぉお、そうだったにゃ。こっちにはドラゴンが居たにゃ……じゃあ、このプラグを口に咥えて」

「これをじゃな……?」

「あんまり強く噛みすぎると壊れるから、優しく扱うにゃ」

「了解じゃ」


 凸型をした電源プラグを咥えるフィアンセの姿がとてもいやらしいモノに見えてしまったアルフォートは顔を背ける。

 いや、身体ごと背けた。

 アルフォートのアルフォートがアルフォートしてしまったのだ。


「アルフォートも男にゃー♪ ふふふー♪」

「ミーアさん!」

「ふぁるふぁおーふぉ?(アルフォート?)」


 と、無垢な紅い眼で見るステアに対して、


「見ないでくれ、頼む」

「ふぁふぁった(わかった)」


 不純なアルフォートであった。

 スイッチをミーアが入れると、その電源プラグがステアの口の中で少し暴れる。

 その様を直視できないアルフォートであった。

 そしてどんどん刷り上がっていく、原稿と同じ紙、とりあえず五十枚用意した。

 速い速い。手書きで十分かかった作業が一秒で一枚出来上がっていく。


「さて、いくにゃ!」


 と言い向かった先は当然、三人が向かった先は当然ギルド。


「あらアルフォートさん、こんにちは……!

 いや領主様とお呼びすべきですかね?」


 受付さんがそう寂しそうに言うのでアルフォートは差し入れのサンドイッチを手渡しながら、


「今まで通り、アルフォートで大丈夫ですよ。

 冒険者稼業は続けるつもりですし」

「あ、それは良かったです♪」

「メスの匂いがするぞい……」


 アルフォートによじ登るステアが牽制するように、歯を見せる。


「いえ、ドラゴン相手に喧嘩を売る気は有りませんよ……。

 でも、妾とか……」


 チラッとアルフォートを熱いまなざしで見る受付さん。 


「我一人で十分じゃ!」

 

 フンスフンスと怒りだすステアも可愛いなぁと、アルフォートの眼にはステアしか映っていない。何というかである。


「さて、今回、ちょっと配って欲しいモノが有りまして……」

「はい、なんでしょう……料理のレシピ、ですか?」

「紙が安く手に入るルートを手に入れまして、冒険者の皆の役に立ってもらおうと思って……」

「あらあら、領主として、ちゃんと考えて下さってるんですね♪

 ありがとうございます!

 早速、配らせて頂き……全部同じ字……? 

 アルフォートさんが全部書いたとしても寸分違わず同じ字になるなんて……?」


 当然の疑問を持つので、


「詮索したら殺すにゃ」

「ヒィ!」

 

 ミーアが脅しをかけると、受付さんの腰が砕ける。

 裏の取締役の一人である上級冒険者のミーアだ。殺る時は、受付員一人ぐらいなら誰にも気づかれずに殺れてしまうだろうことが想像に難くない。


「わ、判りました、何も知りませんし、詮索しませんから」

「よろしいにゃ」


 そして、配布された五十枚。

 後でレビューをしてみたところ、各冒険者からも好評であった。

 これで料理レベル一に上がったという人も多くいたので、十分な手応えを感じたアルフォート達であった。

 そしてレベル一の本を翌月に出したところ、よく売れた。レベル二編が今か今かと待ち遠しにされ、調子を良くしたアルフォートはさらに一か月だけで書き上げてしまった。それも売れた。

 結論、遠くから買いに来る人もいるという状態になり、在庫待ちの人気商品になった。つまり、ローアンの街の名物商品になると同時に、アルフォートの名声が売れ始めたのであった。

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