第23話 ディナータイムと収入。

「やっぱりアルフォートのロックバードのたたきは美味しいにゃー……レベル上がってから更に美味しくなった気がするにゃー」


 と、アーンと楽しんでいるミーアの顔がヌヒヒヒと綻ぶ。

 まるで口の中が楽園のようだと言わんばかりに頬を緩ませてくれるので、アルフォートとしては有り難いばかりだ。

 領主と言っても冒険者稼業は続けているアルフォートだ。

 本日、午前中に取れたてのロックバードを、美味しく仕上げたのだ。

 また、収入も幾ばくか領地に入れている。

 冒険で稼ぐ領主というのもなんだが、昔にもそういう人物はいたそうだ。


「やはり、アルフォートは料理が上手じゃ!」


 負けじとニコニコな笑顔を浮かべて、楽しそうにしているのはステアだ。最近はちゃんとナイフとフォークを自然に使いこなせるようになってきた。今も様になっており、可愛いなぁ、とアルフォートは素直に思う。


「セバスチャン、それにメイド達も食べて下さい、毎度いいますが。領主命令を常々出さないとダメですか?」


 不満の先はセバスチャンと四人のメイド達だ。

 自分が命令を出さないと、自分を差し置いて食べれないと言い張るのだ。

 アルフォートとしては、


「僕は料理人が根本なので、美味しいモノは美味しいうちに食べて欲しい。それだけです。領主の我儘だと思って下さい。だから、僕が食べるのを見届けるとかはいらない配慮です」


 と、言いきる。


「そうは毎度言われますが、ご領主を差し置いて食べるのは……今回のは鳥の生肉もどき、食べろと言われれば食べますが」


 今回は別の点が懸念点だったらしい。

 メイド達も、おずおずとテーブルには座ったモノの、メインディッシュに手を付けられずにいる。


「要らないならミーが貰うにゃー」

「ずるい、ミーア! アルフォートのモノはステアのモノじゃ!」


 と、二人が言い争いを始めるので、アルフォートは二人に追加の肉を出す。

 二人の食欲については人間の比では無いので、既に用意してある。

 アルフォートは彼らが食べられない問題性を理解したので、権威を使うことにする。


「大丈夫ですよ。それは私の父も認めた料理です」

「……なるほど」


 セバスチャンがその料理に対して、つまり生肉(厳密に言えば違うが)を口にすることに対して、納得をする。

 そして震えながらナイフで一口。


「……こ、こんな料理があるとは……」

「……なに、これ……」


 人は本当に美味しいモノを食べた時は言葉を失うという。

 それだけ言うと、セバスチャンならびにメイド達が憑りつかれた様に貪る。

 アルフォートはそんな彼らに笑みを浮かべながら、必要であれば、お代わりを出していく。


「……年甲斐もない姿を見せてしまい申し訳ありません……」

「いや、全然。料理人としては嬉しいことですから」


 と、全てが終わった後、セバスチャンが頭を下げてくるが、アルフォートとしては当然だと言わんばかりに笑顔を浮かべる。


「ちなみにこのレシピはミーが教えたにゃ」

「魔族の食事……⁈」

「そんな大層なモノじゃないにゃー。こっちの地方に伝わってないだけで、南方の帝国内でも一部が魚でやってることにゃー」


 正直、アルフォートもミーアが教えてくれるまで知らなかったし、文化というのは理解されづらいモノだと、この料理が教えてくれた。実際、初めて作った時は魚だったし、ミーアがチェックしてくれた。


「それに魔族だって普通の人間と基本は同じ食生活にゃ。王国内の魔族たちもそうでしょ? 吸血鬼とかはちょっと違うから、王国には入国させないようにしてるし、生息域絞ってるけどねー……」

「……うぬ……」


 セバスチャンが複雑そうな顔をする。

 王国は亜人、つまりミーアのような動物種の傾向を残した人間も多い。だからこそ、魔族との交流も抵抗が無い側面がある。

 そして亜人と魔族の境界はあやふやだ。大抵は自称、亜人か魔族かで終わる。


「さて、お金の話をしようにゃ」


 と切り出したのはミーアだった。

 テーブルを片付けたのは、メイド達だ。アルフォートの方が手慣れているのでと申し出たが却下された。

 食堂のままでいいだろうということで、アルフォートは領主席(いわゆる誕生日席)に座って、その上に可愛いステアをチョコンと座らせる。

 右はミーアだ。

 セバスチャンは左だ。

 メイド達は固唾をのんで、立っている。


「三つあるといったにゃ? 一つはアルフォートがやっている通り、冒険者として稼げばいい。但し、知られていないダンジョンの独占を兼ねてにゃ。ステアは単体でどこまで戦える?」


 ミーアがアルフォートの上のステアに笑顔を向ける。

 ステアは言い淀みを含めて、


「……サイクロプスあたりなら倒せるのじゃ」

「なら上々。私は今、アルフォートの領地にギルドが未発見のダンジョンを十三個確認しているにゃ。一つはこの前のスタンピードの時に出尽くしたから、あと十二個だにゃ」

「……貴様、それを報告せずにスタンピードを引き起こしたというのか!」

「あれは計算違いにゃ。ウチの別の四天王が予測ミスったのが悪い」


 と、ヘラヘラというが、一歩間違えれば大惨事であったことは間違いない。

 否、街道が破壊されたりと、実際被害は残っている状況だ。


「ダンジョンには二種。主が居るタイプと、ダンジョンコアがあるタイプが居る。ステアちゃんの居たダンジョンは前者ね。今はボスが居ない状況だけど」


 ロックバードもやっつけてしまい、ゴブリンなどの生息地になり始めている。

 このまま進めば、ゴブリンキング辺りが出てくるであろうことは予測できるが、まだ当分先の話だと、ギルドでは話題にもならない。

 恐らくオークロードが出てきたダンジョンも同じタイプだったのだろう。今頃、空になった洞窟が何かの魔物が取って代わって住み始めている頃合いだろう。


「ダンジョンコアタイプがその内、十個と言ったらどうする?」

「な?!」


 セバスチャンが驚く。


「ダンジョンコアタイプは、定期的……約二日に一匹にモンスターを吐き出して守らせる。今のところ、サイクロプス辺りのレベルが出てくるコアまでは確認してるけど、それを独占出来るのであれば?」

「サイクロプスで言えば、一体当たり三十金になる、それは定期的な資金源になりうる」

「そういうこと、頭が良いと助かるにゃー。つまり、ステアとアルフォート、ついでにミーが冒険者としてそれらを独占すれば、サイクロプスのコアだけで四百五十金は稼げる計算にゃ。それだけじゃないからもっと稼げるにゃー」

「ギルドへの報告義務違反になるぞ?」


 確かに冒険者には新しいダンジョンの報告義務がある。


「それは領主権限でどうにもでなるにゃ? 未発見のダンジョンが発見されたんだから、その資源の云々は領主が決めていいにゃ。つまり、独占してもいいにゃ。ギルドは領主から委託される形でダンジョンの管理運営をしてるんだからにゃー」

「筋は通る……」


 ミーアがセバスチャンをやりこめたとニコリと笑う。


「二つ目の案も近い話。稼げなさそうなコアタイプと面倒なボスタイプのダンジョンの権益をギルドに渡す代わりに代価を得るにゃ。今まで既知になっていたのは、領主の権限で課金するのは不満が出るだろうが、未知に関してはとにかく言われる筋合いはないにゃ……コア四、ボス二でセバスチャンにゃ、幾らを領主は吸えるにゃ?」

「全部で百五十はいけるであろう」

「なら月の借金二百を返す金は、あと二十金で済むにゃ。これぐらい、アルフォートが上級者の冒険者に成ったのだから簡単にゃ。いや、一回、食事会を開くだけでも二十金ぐらいはとれるんじゃにゃいかにゃー」


 ミーアがフフフとアルフォートに笑みを浮かべてくる。

 師匠としてのプレッシャーをかけてきている圧を感じるが、別段難しい話ではない気がするので、軽く流す。


「領主として、その二つの案を採用とする」


 アルフォートはそう、威厳のある声で締めくくった。


「で、ミーア、三つと言っていたけれど、三つ目はなんだい?」

「単純、アルフォートを売るにゃ」

「「「「「「「は?」」」」」」」


 食卓にいた全員が、声をハモらせた。






 



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