領主アルフォート

第22話 借金領地。

「一億二千万金ほどの借金がありますね」


 その巨額な数値に領主席に座ったアルフォートは驚きを見せるが、報告してきた老執事は狼狽することも無く淡々と事実を述べた。

 この老執事はセバスチャン。アルフォートの親が派遣してくれた腕利きの内政官。白いロマンスグレーの髪と同じ髭は丁寧に手入れされており、また右片メガネというアイテムも彼が出来るヤツだと雰囲気を出している。


「あらら、ご主人様、大金ですね」


 と、四人のメイドの内、ピンク髪をツインテールにした巨乳のメイドがそう言う。他には青色、黄色、緑色のそれぞれ個性豊かかつ胸の大きいメイドたちが居る。この人等もアルフォートの親が派遣してくれたメイドだが、胸の大きさにステアが嫉妬し、大事になりかけた。


「私どもへの支払い月百金はビタ一文とも割引することはできませんので、というか、御父様に感謝して下さい。私達をたった月百金で雇えるのですから」

「それはもう……」


 全員が全員、それぞれのエキスパートであることは冒険者カードで確認済みである。セバスチャンに至っては、執事九、暗殺者六、格闘家七とかなり強い。


「別にミーに任せとけば問題にゃいのに」


 と、ゲンナリするアルフォートの肩を叩くのは猫耳のミーアだ。

 何故か住み着いているが、掃除洗濯をメイド達としたり、ステアの遊び相手になってくれたりする。報酬はアルフォートのご飯で十分にゃー、ということだ。

 それはそれでプレッシャーがかかる。


「そもそも借金の理由は?」

「ステア様の母君が放任主義だったからです。月当たり、ギルドから収入が約二百万金、それに対して支出が二百二十万金。王のご命令もあり、借金自体は無利子で担保されておりましたが、それが五百年、積み重なりまして……」

「つまり、ママ様の責任じゃな! ちょっと話をつけに……」

「ステイ、ステア。それ込みで領地を譲ったのが透けて見える。試しているのだろう、僕たちを」

「むむむ、ママ様の意地悪め……!」


 ステアがアルフォートの膝の上にポフンと座り、頬を膨らませる。


「私としては、今まで税を民や店に掛けずにやってきました。それに対して税を掛ければ、金二十の赤字など、スグに消し飛ぶでしょう」


 そして紙で試算された明瞭な数値、金五百の収支になるほど、アルフォートは感動すら覚える。


「ミーは反対にゃ」


 そこにミーアが口を挟んでくる。何をとセバスチャンがミーアを睨みつけるが、ミーアは気にもしない。だって圧倒的なレベル差があるからだ。


「一つ、放任主義であったからこそ、ローワンの街は発展してきた。無税だからこそ、結果的に魔族領で言う『楽市楽座』となって、お金を掛けずに発展、公共事業費なども組合出来て支払っていた。そこに突然、領主となったアルフォートをぶちこむ? バカじゃねーの? 死ぬよ?」


 ミーアはフフンと鼻を鳴らす。

 セバスチャンは、ピクンと右片メガネを直すと強い口調で言う。


「代案はあるのかね?」

「その前におっちゃん、月、幾ら払い迄、借金の返済を減らせる?」

「月二百金だ」

「おーけー十分」


 ミーアは領主のテーブルに腰を掛けながら言う。


「収入を三つ、支出を減らす案が一つあるにゃ」

「そんなに……だと⁈」


 セバスチャンが驚く。アルフォートも驚くが声が出なかった。


「支出から説明するにゃ。今、ギルドに支払っている二百二十金の内訳は?」

「隣接する帝国相手への備えに百金、先日のようなスタンピード相手の備えに七十金、魔王国相手への備えに五十金だ」

「魔王国相手への五十金を無くせばいいにゃ。同盟相手なんだし」

「な?!」


 セバスチャンが驚きを隠せずにいる。


「正直、何を怖がっているのか判らんのよね、ミー達の何を」


 ミーアはニヤリと口元を開く。


「……き、貴様! 魔王四天王が一人、ミーア・チャイコレフ!」

「やーっと、判ったの? 老いぼれたわね、戦場で一緒に帝国と戦った仲じゃない」

「危険です、こやつは。懐に入り込み、油断した所を……!」

「帝国軍人にしただけにゃー。王国には手を出してないにゃー。非人間を差別しない王国にミー達は敵対心を抱くことは無いし、そもそもドラゴンの加護を受けている国なんて攻めたくもないにゃー」


 笑みを浮かべたままだが、圧力が増しているとアルフォート。

 師匠である彼女のこんな顔を観たことが無い。

 明らかにセバスチャンを獲物として観ているのが判る。


「ミーア、やっぱりすごかった?」

「ステアちゃん、好きにゃー。私、四天王って正直に話してるのにだれーも信用してくれないんだもん。信用しているのは、この領地の各有力者達だけ。悲しいったらありゃしない」


 と、いつもの世話好きのミーアに戻ったとアルフォートは感じる。


「一応、スパイとしてこの王国にはいるけど、その活動に口を挟まないでくれるならミーは敵にならないにゃー。それと魔王様に誓って、アルフォートの持つ領地を攻めないと公言してあげるにゃ。だってアルフォートは私の弟子だもの、ちゃんと守ってあげなきゃ」

「……本当だな」

「ミーに二言は無いにゃ、何なら魔王様から書類を貰ってきてもいいにゃ。同盟なのに何故、そんな書類が……無駄じゃろと、怒られるのは眼に見えてるけどにゃー……」


 自分の言葉にゲンナリするミーアであった。

 いつも魔王様のことと話しているとゲンナリするのを観ていたアルフォートはこれが真だと感じて決断する。


「領主として、命令する。私の師であるミーアを信頼せよ、そしてギルドに支払う対魔王軍宛ての金を減らせ。すれば、三〇金浮くであろう」


 それに対してセバスチャンはウンと一つ頷くと、


「いいでしょう。確かに貴方たちは師弟関係にあるようだ……」

「ニャハハ、領主になるとは思わなかったけど、いい投資だったのにゃー。特に料理人レベル九のご飯なんてそうそう食べれるものでも無いしにゃー」


 ミーアは大きく眼元を弓にし、セバスチャンに対して皮肉っぽい言い回しをした。


「さて、収入の件を聞きたいのだが……」


 セバスチャンが焦るように言うが、


「アルフォート、晩御飯の時間だし、食べながら話すにゃ」


 とミーアに出先を挫かれた。

 そんな様子を観ながら、楽しい毎日が始まりそうだと、アルフォートは思うのであった。

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