第21話 謁見。
「……オークキング討伐の功で王様に謁見することになるなんてな……」
「うむ、人間の王というのはどのようなものか、観てやるチャンスではないか!」
心痛そうな面持ちのアルフォートとは逆に楽しそうな反応を示すステアは可愛い。
あの後、ギルドマスターに受付さんから報告を依頼されたステアとアルフォートは再び、王都に来、その足のまま王宮に召還されてしまったのだ。
「アルフォート、くれぐれも粗相が無いようにな……あの方は悪戯好きだが、それがえげつないからな」
と、アルフォートにプレッシャーをかけてくれた父が悪いともいう。
左にアルフォート、右にステアという形で、二人して肩を並べて頭を垂れている。
そして王が来た。
「頭を上げよ」
そう威厳のある声が促すので、アルフォートとステアはまっすぐに王を観る。王は歳を取っており、白髪で、髭を蓄えている。その眼は優しそうに見えるが、どこか心を見抜いてくる厳しい眼差しにも見える。王冠をし、赤いマントをし、高そうな服を着た大層威厳がありそうな大人であった。
だが、それよりも驚いたのは、
「ママ様?! なんでここに⁈」
「ステア、はしたない真似はよしなさい。王の前ですよ」
白い服を着た巨乳の赤髪の女性が居たのだ。彼女のことはアルフォートも見たことがある。そう、ステアと出会った時に居た、大人のドラゴンが人化した姿だ。
「はい、ママ様」
クフフと笑う、王とステアママ。
「そりゃ、娘が活躍したと聞いたんですもの。国のお偉いとして、功を労おうと顔を見せた訳よ」
「……どういうことかさっぱりなんですが……そういえば、ステア、建国神話にもあるドラゴンライダーとか言ってなかったか?」
「そう、ママ様に聞いていたのじゃ」
ステアの言葉に建国神話を思い出すアルフォート。確か、ここの国は……
「つまり、ここの王国はこのドラゴンと人間のカップルが始めた国という訳じゃよ」
そう王様が結論づけた。
「まぁ、あの人はだいぶ前に死んじゃったから、バツ三ぐらいしてるんじゃがの、このドラゴンは」
「何か言いました?」
「いいえ、大大祖母様」
王が軽口をたたくと、怖い顔をするステアママ。どうやら、力関係はステアママの方が上らしい。
「つまり、ステアは?」
「簡単にいうと、王国の血統に対して大叔母になるわね」
ひえぇと、アルフォートは内心、驚く。
「それを聞いても、顔を驚きに変えないのはいいわね。胆力がある。内心はビビりちらかしてはいるとは思うがのう」
ククク、とステアママが意地悪く笑う。
「ママ様、それはアルフォートへの侮辱なのじゃ! 取り消して頂きたいのじゃ!」
「おっと、娘に相当好かれている様子で良きかな、良きかな。済まぬかった、戯れだと思うてくれ」
そうステアママが頭を下げてくる。
「あまりかしこまらんでいいぞ、アルフォート殿」
と、王様が懐かしむように、
「儂もその他の父を試した時、よぼよぼな老人の格好をして店に行くという意地悪をしたが、一発で見抜かれてかしこまれて、すっかり怒られてしまった。堂々と食べに来いと、だから堂々と一度だけ王冠のままいってやったわい」
それは親父も口を濁すわけだなと、アルフォートが理解する。
「はぁ……では、お言葉に甘えまして、普通に話をさせていただきます」
アルフォートが緊張で強張った口調からいつもの若干、丁寧な口調に戻る。
「オークキングはどうじゃった?」
「強かったです。でも、ステアと力を併せて何とか乗り越えることができました」
「ドラゴンライダーは何レベルまであがっておる?」
「今、七レベルです」
実はあの後、自分のレベルをチェックしたら上がっていたのだ。ステアの騎乗スキルも七レベルまで上がっている。
「ほほ、十分十分。大大祖母様が王級に戻ってからで換算してからでも相当早いし、順調に愛を育んで居るようじゃな」
「愛?」
「そう愛ですよ、アルフォート君。ドラゴンには愛が必要なんです。それがドラゴンとして強く成れる手段なんです」
ステアママに君付けされると、くすぐったい感触が体に走る。
「こやつとこやつの系列だけだと思うがのう?」
「なにか、言いましたか?」
「いいえ何でもございません、大大祖母様」
王様がステアママににらまれると口を慎む。
「ステア、ドラゴンでの愛情表現は済ませましたか?」
「人間のキスというのも済ませたのじゃ!」
「あらあらまあまあ……」
と、アルフォートが睨まれる。
「仲が良いのは、大変、嬉しいですが、後十年は性行為はダメですからね?」
「はい、判っております」
ドラゴンに睨まれた蛙とはまさにこのことだと、アルフォートは内心、思うが不思議と怖くはない。
「……それと……これはいいわ。
どっちに転んでもいいモノ」
「?」
ステアママが何か言いかけて止めたので、クエッションマークが浮かぶアルフォート。何の話だろう。
とはいえ、アルフォートは言っておくべきだと感じ、
「当然のことですが、ステアを大切に思うことが第一ですから」
そう堂々と愛の告白をした。
「……っ! この純情な眼、ドラゴンと相対しているのにやるわね!」
「ドラゴンとは毎日相対してますので慣れました。それに何があろうともステアを愛すると指輪も既に送りましたし」
と、ステアの左指の薬を見せる。
その手には銀色に輝くミスリルの指輪がキチンとさせられている。
「早い……! 行動が。しかも、ちゃんと対ドラゴン仕様の指輪で……!」
「ステアへの好きがあふれ出してしまったので」
親父に言われたからというのは言わなくても良い事だ。
「婚約指輪です。これで、ステアは僕のモノだという事が周りに示せますし、僕の本気度が貴方がたにも伝わったかと存じます」
と、逆に二人のお偉方にプレッシャーをかけ始めるアルフォート。
ステアのことになると行動的になるのは、いつものことである。
「あぁ、伝わった」
「えぇ、伝わりましたとも……私の時は、何年もかかったというのに……!」
昔の王様のことを思い出して比べてくるステアママを面白いと感じる。
「で、呼び出した理由は何なのじゃ?」
と、ステアが切り出す。
「褒美を取らせようと思いまして。領地要りませんか?」
「はぁ……? え? 料理ですか?」
料理レベル十に上がる秘宝があるならぜひとも欲しいアルフォートである。
「いえ、領地です」
なんだ、領地か……と残念に思い、そして思い返し、
「領地?!」
と聞き返してしまうアルフォートに笑みを浮かべる王様とステアママ。
「……ちなみに何処のですか?」
「私のもっている一部である、ローワンの街とその近辺など如何でしょうか。そこの租税権やら領主権やら一式、お渡ししますよ」
結構、大きな街であるローワンが一部ということにも驚いたが、それをポンと受け取っていいモノかと悩む。
「聞けば、貴方はドラゴニル家の復興を願っているとのこと」
ギルドマスター経由だろう、そう言った重要な情報は流石に王宮に流すべき情報だからだ。
「ならば、爵位と領地と謁見、三つが必要になります。ここで謁見が終わり、そして領地を与えましょう……爵位はそうですね、今後の頑張りを観てとステアが大人になった際の祝いにでも」
「あ、ありがとうございます!」
ペコリと頭を九十度に下げてしまうアルフォート君の律儀さを観て、
「娘にやらずに、私が嫁げば良かったかしら?」
ペロリとしたを出し、艶っぽい声で言うので、
「ママ様には絶対にやらんぞ!」
と、アルフォートの前に出て、大の字で立ち塞がるステア。
圧倒的なドラゴンとしての格の違いにその手と足は震えてはいたが、しかりとステアママの眼を観てステアはそう言い切ったのだ。
「冗談よ」
と、ステアママはそう笑みを浮かべた。
試されている感じがあった、謁見が終わりようやく、解放される二人。
「ステア、やったぞ……君のお陰で夢がまた二歩進んだ!」
「アルフォート! よかったな!」
そうして、二人は嬉しそうにしながら、肩車をして王宮から立ち去っていくのであった。
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