第20話 宴会

「なんで勝利の立役者が料理してるにゃー?」


 ミーアが料理をしているアルフォートにそう声を掛ける。

 周りには大量のオーク肉が積まれており、凄い勢いで料理を作っているアルフォートが居る。

 他にも何名かは料理に参加しているが、アルフォート程の手際の良さはない。


「……素材を一番活かせるのは誰だと思う?」

「レベル九おめでとうしたアルファートにゃ」

「そして今回参加した、村ならび王都からの援軍、百名以上の料理を誰が作れる?」

「……アルフォートにゃ」


 ミーアはそう察して給仕を手伝うことにする。

 彼女とて、レベル四の奉仕者である。

 ステアはというと、


「アハハハハ! 我こそが最強の種族、ドラゴンたるステア・ドラゴニアなり! 冒険者としてオークキングを討ち果たしたモノぞ。皆、宴にて飲もうぞ、歌おうぞ」

「ステア! 君は飲めないだろ!」


 突っ込みをアルフォートに入れられつつ、ドラゴンの姿を披露したり、可愛い子供の姿で冒険者に担ぎ上げられたりしている。


「……なんというか、可愛いよな」「あぁ、ドラゴンの姿はおっかないが」「あぁ、いうスレて無い子は冒険者にはいないもんなぁ……」


 皆からの声をピックアップすればおおむね好評である。


「今日は大丈夫だろうけどにゃぁ」


 ミーアは少し心配する。今日はこの活気と人数も相まって有り得ないとは思うが、後日には腐ってもドラゴンであるステアを狙う奴は出てくるであろう。


「まぁ、ミーの役目かにゃぁ……アルフォートには恩もあるし」


 今回の件、魔王とは全く無関係のスタンピードであった。

 実際、国境を接している魔王領からも対オークキング宛に援軍を出す予定ではあったが、ステアとアルフォートの踏ん張りだけで何とかなってしまった。

 つまり、魔王国は王国に恩を売り損ねた訳だが、損はしていない状態だ。

 その上で、統率の取れた野良の魔物の怖さが伝わったおかげで魔王国と王国の友好は更に頑丈なモノになるだろうというのが、諜報員としてのミーアの考えだ。


「それは同時に魔王国がステアとアルフォートに恩を売られた状態になるにゃー」


 彼女が魔王の四天王で諜報員というのは嘘でも何でもない。

 事実なのだ。


「まぁ、今日はうたえにゃ、踊れにゃ。どうせ、その二人を守るように通達が来るのは判ってるんだにゃ」


 と、頭の切り替えが早いミーアはビールを飲みつつ、冒険者共に肉を分けていく。酒が足りなければ酒だ。旅館を回すよりは雑でいい。


「正直、ホントにレベル九になってるにゃ……」


 味に関して、比較的に慣れているミーアですらそう言える肉の塊。量産されていく、生姜焼きだったり、オークカツだったり、オークステーキだったりは冒険者にとって、


「料理人レベル九の料理とか初めて食べたが、何だか良く判らんほど旨いな!」「あぁ、とてつもなくすごくすごい!」「今日が終わったらパーティーレベルで料理人レベル一しかない奴の料理になるんだぜ……」「俺のところなんか、料理人レベル持ってる奴いねーよ!」「ハハハ、お前ら辛気臭いこといってにゃいで、今日は飲むにゃ」「ちげーねぇ」「かんぱーい!」「かんぺーい!」


 てな感じで、大盛り上がりである。

 時折、ミーアが盛り上げに参加するのはワーキャットの美人である彼女が声を掛ければ、暗い話になりやすい冒険者どもも陽気になるというモノだ。


「そろそろ、アルフォート君とステアちゃんの表彰したいんですけど!」


 この言葉は受付さんだ。

 料理も酒も皆に回ったころ、そう叫んだ。

 アルフォートも一息入れて、ようやくカツサンドを食べている所であった。

 なお、ミーアも一度目の襲撃に対して功労があったため、呼ばれそうになったが影たるモノ目立ちたくない為、辞退した。


「ほらほらアルフォート!」


 とミーアが、アルフォートを押して皆の前に出す。

 ステアはというと、皆からワッショイワッショイと小さな六歳児の身体を担がれて前に来る。


「はい、今回、随一の働きをしてくれたのは、この二人で異議のある人はおりませんね?」


 と受付さんが言うので、皆が、


「「「異議なーし!」」」


 と大きな声で答える。


「とりあえずという形で、街として感謝の意を示して表彰させて頂きます。アルフォート殿、ステア殿! 此度はオークキング討伐のおり、大きな功績を残されたので評します! さて面倒な硬いことはさておき、一人ずつ、一言お願いします!」

「ぇっと、僕は料理人でこんな場に立てることなんて夢にも見なかったです。ステアが僕と一緒になってくれて、色々と助けて頂いて……いや、皆さんにも今まで助けていただき、ここまでこれました! これからも精進させていただきますのでよろしくおねがいいたします!」


 アルフォートがそう締めて几帳面にお辞儀をするとワー、パチパチパチ、と大きな声援が飛ぶ。


「奢ることなく、皆を引き立てる良い演説にゃー」


 ミーアは知っている。全部を全部、自分の武勲にして、後で刺された冒険者を。今回も少なからず冒険者に被害は出た。その仲間を思わないモノは、冒険者としては失格だし、冒険者同士が助け合いで成り立っているという前提を忘れた物言いは非難を浴びる。


「さて、ステアはどうするかにゃー」


 と、グラス片手にミーアは楽しそうに眺めている。


「次は、ステア殿!」

「うむ。皆のモノ、我はドラゴンたるステア・ドラゴニアじゃ。このアルフォートの婚約者でもある。今回の戦、皆の支援があったからこそ勝てたモノじゃ。我とてまだ若輩者の冒険者。今日、先達していった者たちにも感謝を示し、皆に習うことも今後、あろうかと思うのじゃ。よろしく頼もう!」


 アルフォートのようにお辞儀をする。すると怒号のような、大きな歓声が沸いた。アルフォートの時とは段違いの歓声で、ビリビリとミーアのグラスが反響で揺れている。


「そりゃそうにゃ、ドラゴンと言えば生きたる伝説で暴君で我儘。それに手柄を譲られ、先輩扱いされる誉れなぞそうはないからにゃー」


 ミーアはステアに対しての点数を上げる。よく出来た演説で有った。誰かが、ステアに対して人間社会での生き方を教えたのであろうかと、ミーアは結論付けた。最初に会ったころとは大違いだ。

 当然、これはアルフォートの母親の教えが生きたからだ。彼女は商人の娘だ、言葉の力をよく知っている。

 そうして場が最高潮になった時に、ミーアに悪戯心が湧く。


「その二人、婚約者同士だにゃー。ここで一発キスでもかまして欲しいにゃー。ほーら、キースキース!」「キース! キース!」「キース! キース!」


 と自信の扇動能力を活かし、二人を煽り始めた。

 この前、戻ってきた時はキスすらしてないような関係に見えたので、背中を押してやろうという粋な計らいである。


「アルフォート……皆に見られながらはちと、恥ずかしいのう」

「でも、しないと収まらなさそうだし」


 アルフォートが六歳児であるミーアの慎重に合わせて背を引くくし、そして、


「チュ」


 と唇と唇を合わせた。

 そしてネットリと長い時間をかけて二人は、お互いの口内を楽しむ。

 その間、皆はジーっと見惚れるだけで、時折、グラスを落とした音がパキンとなるだけの静寂になった。


「ぷはぁ」

「アルフォート、やっぱりキスは良いモノじゃな!」

「ふふ、そうだね」


 と二人が、離れた瞬間、うおおおおおおおおお、ッという声と共に場は最高潮に達した。

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