第18話 オークキング。

 オークキングはイライラしていた。

 人間どもにドラゴンなぞが加勢してるからだ。

 我々、魔物は好き放題やるからこそ、魔物なのだという自負をもっている彼だ。彼にとってその最もたる信じていたドラゴンが人間なんぞに飼われているなど到底、許せるはずも無かったのだ。

 だから、集中して狙わした。

 そしてドラゴンはたまらずと人間の陣地に引き返したが、観れば戦闘指揮をとっている人化をし、金髪の若造に抱き着いている。

 つまり、人間に篭絡された堕ちたるものだということが判明した。

 それは彼を一層、奮起させるにいたる。

 彼自身が前に出る。

 するとオークたちも負けじと前へ前へとじりじりと人間たちを追い込めていく。

 だが、昨日、立ち会ったワーキャットに邪魔をされ、思うように軍が前進できない。強いのだ、それまでにミーアは。他のモノもそれなりに強いのが追加されているが彼女ほどではない。

 ミーアのあれは人間の力ではない。魔王軍の類の力だとはっきりわかるが、何故、魔王と人間が組んでいるのだろうということは昔から、疑問だったそのオークキングは問うてみたくなった。


「なぜ、お前は人間につく」


 ワーキャットであるミーアの目の前、つまり前線にまでオークキングが出てきた。

 そしてミーアは笑う。


「人間のご飯が美味しいからにゃ!」


 そうオークキングには意図が判らない答えをしてくる。

 どうやら応えるつもりが無いのだな、と彼は判断し、思いっきり振りかざし、まわりのオークごと、こん棒でミーアを吹き飛ばしにかかる。

 それは成らなかった。

 身のこなしで、オークキングのこん棒をまるで体操の棒のようにとらえクルリと掴み回転したのだ。その上、ナイフをオークキングの首に投げ込んでくるという高等技術まで発揮してくる。

 だが、その刃は届かない。

 鍛えに鍛えた筋肉がカツンという音をさせ、ナイフをはじいたのだ。オークキングは常々思っている。筋肉は裏切らない!


「くそがにゃ! この筋肉達磨!」

「おまえさえ倒せば、後は雑魚だ!」


 そう叫ぶのも当然だ。ミーアの卓越した技術はオークキングをして驚嘆するものだが、それ以上の戦力は出てきていない。ドラゴンこそいたモノの、あれはまだ若いドラゴンだ。脅威ではないとオークキングは判断している。


「なにを、はったりをおおおおおおおおおおおいたああああああああ」

「そうとは限らんのじゃがにゃーあああああああああああ!」


 ミーアの一撃、投げナイフの攻撃が眼に決まった。鍛えられなかった左眼は彼を裏切ったのだ。そう結論付けたオークキングは痛みで叫びを轟かせる。

 しかし、同時にミーアがこん棒の一撃を喰らい吹っ飛んでいく。

 お互いに痛み分けのクリティカルだ。


「ミーアさん、引いてください!」


 優男の声が聞こえた。そう、アルフォートだ。

 オークキングからしたら、指揮官が前に出て来たな、という感じだ。

 それだけ相手には後が無いのだろう。そう判断し、子分たちに攻撃させるが、小さな赤い影に阻まれ、頭を粉砕されていく。

 人間でいう六歳児の姿をした赤い姿。赤い眼、赤いドレス、そして赤い尻尾、さきほど、ブレスをしてきたドラゴンに相違ない。

 なるほどと、オークキングは納得する。

 こいつが、この赤いドラゴンを篭絡した人間なのだと。

 こいつが、最後の難関なのだと、そう確信した。

 オークキングは、猪突猛進にアルフォートに迫る。

 だが、レンジャーレベルが六になったアルフォートはこん棒による一撃をかわすことができた。そしてカウンターとばかりにステアがオークキングの両々たるわき腹に爪を立てる。


「ぬ……硬いぞ、こやつ!」

「筋肉は裏切らない!」


 先ほどのミーアとかいうワーキャットには不覚をとったが、若いドラゴンなんぞには不覚を取る訳が無い。カウンターとばかしに左拳の一撃を入れるが、オークキングが感じたのも硬いだった。


「ぐう……」


 とはいえ、効いていない訳では無いようだ。

 ステアから苦痛の声が漏れる。


「まるであの時のキャジのような一撃じゃ!」


 ステアがそう言った瞬間、


「ぬう?!」


 アルフォートに不意を突かれたオークキングのわき腹が切られる。

 なんだっと、オークキングは思う。

 今までどんな人間の剣士にすら切られたことが無かったのに、筋が断ち切られている。


「貴様らあああああ! 何者だああああ!」

「アルフォート・ドラゴニル! ステア・ドラゴニアのフィアンセの料理人レベル九だ!」

「ステア・ドラゴニア! アルフォートのフィアンセじゃ!」


 オークキングにとって料理人レベルというものは知らぬが、超高レベルの切断を使うジョブということだけは理解出来た。


「ステア、まだいけるな⁈」

「勿論じゃ、我がフィアンセ!」


 強敵だ。そうオークキングは二人を認めた。

 確かに、先ほどのミーアには眼をやられた。しかし、命の危機は感じなかった。

 だが、この二人に油断、隙を与えれば、命に関わるということがハッキリわかった。本気を出さねばならぬ。

 ならば、もう使えぬ、左眼などいらぬと、ミーアにやられた眼を自分で取り出し、握りつぶす。オークキングに後退はないのだ、そう自身に言い聞かせるためだ。


「ぬう……」


 オークキングは考える、ドラゴンの攻撃は皮膚は通さぬ。クリティカルするであろう場所、例えば股間、眼、爪などの細部で受けなければイイ。逆に優男であるアルフォートの攻撃は非常に危険だ。鍛え上げてきた筋肉を切り裂いてきた。

 ならば、注意すべきはアルフォートの攻撃だ。

 アルフォートを攻撃すれば先ほどの様にステアからの連携が来る。

 ならば先に潰すべきは、ドラゴンのステアだ。

 そう彼は決定づけ、アルフォートの攻撃を喰らわないよう注意しつつ、ステアに攻撃をし始めたのであった。

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