第17話 スタンピード。

「ちょうど良い所にきたわね!」


 アルファートとステアがギルドに入っていく。

 するとギルドマスターがそうスグに部屋に呼び込んで、声を掛けてくる。


「貴方達の上級ダンジョン許可証はとれたんだけんども……」

「何か問題が?」


 複雑そうな顔でギルドマスターが複雑そうな顔をして、


「ローワンの街がモンスターレベル十、オークロードのスタンピードに狙われている様なのよん……今日、急ぎの伝言が届いたわ。何人かの冒険者もオーク相手に犠牲を出しているらしいのん」


 スタンピード、つまり、大がかりな舞台による攻撃の事だ。


「……つまり、討伐隊が組まれるという訳ですか?」

「討伐隊とは何じゃ?」


 ステアが不思議そうな眼でアルフォートを観る。


「上級者以上の前衛冒険者に強制徴収がかかって、防衛線や殲滅戦を行うことだ」

「つまり、アルファートも参加する戦争じゃな?」


 そうステアが言うのでコクリとアルファートは首を縦に振る。


「そこで頼みがあるんだ」


 ギルドマスターはオカマ口調を止めて、頭を下げる。


「そこのステア嬢の力を貸して欲しい」

「というのは?」

「一、単純に戦力としてドラゴンとしての力を貸して欲しい。二、ここからの冒険者の輸送力としてドラゴンということを明かして働いてほしい」


 つまり、ステアにドラゴンとしての素性を明かせという事だ。


「ムリにとは言わない。だが、一刻も争う自体なのは確かだ」

「……」


 アルフォートは悩む。

 ステアがドラゴンだと隠してきた意味が全くなくなるという事である。

 そして悪意あるモノにステアが狙われる可能性が出てくるという事でもある。

 だが、しかし、


「我はいいのじゃ」


 ステアはそう自分で応えていた。

 小さな胸を張り、そう自信満々気に。


「ステア……」


 逆に悲痛な顔をするのはアルフォートだ。

 自分がこんなにも恋焦がれているドラゴンの少女が今後、人間の汚い部分を観る羽目になるかと考えると悲痛な面持ちにも成ろうというモノだ。


「ローワンの街には婿であるアルフォートが世話になっている。特にミーアや受付嬢などにはな! その恩を返さねば、ドラゴンの名が廃るというものじゃ!」


 そう、アルフォートに言い切った。

 ステアの覚悟が決まっている、それが良く判った。

 ならば、婚約者として、背中を押すだけだ。


「判りました、ご協力いたします」

「ありがてぇ……!」


 そうギルドマスターがステアに頭を下げる。


「どれくらいの人数をドラゴン状態なら運べる?」


「箱に入れて運べば、三十人は楽勝じゃ。但し、背に乗せるのはアルフォートのみだ。こればかりは譲れん!」

「十分だ……!」


 そうスグに指示を始めるギルド長。

 大きな箱(木の格子みたいな形状)を用意し、今いる上級冒険者の内、レベルが高いモノを集める。そして、すぐに出発することになる。

 冒険者たちは最初は少女の姿が代わり、赤い大きな三メートル級のドラゴンが現れたことに動揺した。


「指輪、壊れてないのじゃ……ホントに凄いモノを買ったのじゃな」

「そりゃステアの為だもの。本気で用意させたさ」


 しかし、ギルド長から説明とこのやりとりがあると落ち着いてくれる。流石に上級冒険者だ。なんだこの子は恋する女の子じゃないかと、冗談を言い合っている人も居る。


「いってこい!」


 その言葉と共に、ステアは僕を背中に乗せ、手には人間を詰めた箱を持って飛び出していった。そして半日もしないうちにローワンの街に辿り着く。

 防壁は削れており、一部の建物が壊されている状態だが、一旦の小康状態なのが判る。


「アルファート! ようやくキタにゃ!」

「アルフォートさん、ステアさん!」


 と、声を掛けてくるのはこの街で一番強いミーアと受付さんだ。


「オークロードのヤツと戦ったが、周りのオークが多すぎて抑えることしかできなかったのにゃ、面目ないにゃ……ミーは多人数戦は苦手でにゃぁ」


 この人はこの人でおかしなことを言っているとミーアに対して思う、アルファートであるが、そのおかげで小康状態に持ちこたえたことが判ると心強くなる。


「行ってくるのじゃ。我がたどり着くまでに死ぬでないぞ?」

「判ってる。ステアこそ、気を付けて」


 そして、ステアは王都にもう一度、往復させ、冒険者を増やす作業に従事することになる。


「オークの軍がきたぞぉ!」


 そう斥候から声が上がったのは丁度ステアが飛び立った後であった。

 一面が埋まりそうなオークの群れが森からゾロゾロと飛び出てくる。

 中にはオークアーチャーだったり、オークメイジ、投石器を持ったものまで居る。


「……結構、本気を出してキタにゃ。前日の戦闘では、投石器なんざ持ってこなかったのに……あのやろう……」


 ミーアがそう言うので、上級冒険者たちにも緊張が走る。

 ミーアから説明を受ける際に、彼女が超上級冒険者であることを冒険者カードで確認したからだ。説得力が違う。

 投石や矢による投射が始まった。

 それを矢避けの呪文で冒険者側が、防ぐと二メートル大のオークたちは血気盛んに突撃をしてくる。まるで暴走した牛のように、ドドドドドドドと地響きを鳴らしてだ。


「遠距離から先ずあてるんだ!」


 何故か最上級レベルのミーアからの推薦でリーダーをやらされる羽目になったアルフォートがそう声を掛ける。

 すると大きな水や炎、雷などの魔法がオークたちを貫いていき、一部を削ることに成功する。しかし、数が数だ。焼け石に水ともいえる状態ともいえる。


「遠距離部隊は、相手の遠距離部隊、オークメイジ、オークアーチャー、投石器を攻撃! 前衛前へ!」

「待ってましたにゃ……!」


 とミーアが我先にと飛び出していき、一瞬のうちに五体を血祭りにあげる。強い。それに勇気を鼓舞されるように皆も突っ込んでいく。


「ダメージを受けたら小まめに後ろに下がってヒーリングを受けて下さい! あと、城壁に取り付こうとしている連中がいたらそっちを先に!」


 ローワンの街は、ぐるりと囲むように城壁で囲まれている。

 周りにダンジョンが多く、こういった事態が昔から稀にあったからだ。

 アルファートなんかもゴブリンキングに追い回され、ここまで連れてきたこともある。

 そう言った立地もあり慣れた冒険者が多いが、やはりそれでも数の暴力には勝てない、徐々に強者のミーアが囲まれ、冒険者たちも押され出す。

 そして最悪なことに、奥の方から五メートル級のオークキングが現れたのだ。

 あちらもまだ指示に徹しているが、人間側の人数が足りない……!

 キャジでもいればまだマシだったかとアルフォートは思うが、それは後の祭りである。


「援軍を連れてきたのじゃ!」


 と、オークの群れに投下される箱、その中から元気な冒険者が一気に飛び出し、戦線を前進させる。

 ステアだ。ステアが、冒険者の第二陣を超速でつれてきてくれたのだ。


「たすかったのにゃ!」


 とミーアは一旦下がり、回復魔法を受けるや否や、すぐに飛び出していく。


「ちょっとさがれ、皆のモノ、ブレスをするぞ!」


 そう言った瞬間、ステアから炎のブレスが空中から吐かれ、オークの群れを焼いていく。

 突然のドラゴンの攻撃にたじろぐオークたちだったが、オークキングの適切な指示により、持ち直し、空中のミーアを狙おうとオークメイジとアーチャーが狙い始める。


「つ……!」


 さすがにまだ成人していないドラゴンにはつらいのであろう、幾度か魔法が当たると、アルフォートの横に六歳児の姿で着地をする。


「助かった、ステア!」

「それよりも手ごわいぞ、あやつ……冷静に我に判断してきおった!」

 

 その言葉で、ゴゴリとこれからの戦いに緊張し、喉を鳴らすアルフォートであった。

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